iPadの画面例。年齢の高い看護師には「扱いやすい」と評判がいい

 現在は、このLOOX5台に加え、iPadとiPod touch各2台を運用している。「タブレットPCはやはり携帯性に不満がありました。iPhoneが登場してiPhone SDKで開発しようと思って勉強を始めましたが、なかなか難しく困っていました。しかし、昨年7月になってFileMaker Goが発売され、iPadやiPod touchなどでFileMaker環境を簡単に利用できるようになったので、早速、テスト運用を開始しました」(中村氏)という。

 本システムでは、受付で医事会計システム(ORCA)に患者基本情報を入力すると、患者氏名、年齢、性別、払い出された患者IDの各データがFileMaker Serverに送られる。看護師がiPadなどの端末から利用者IDを入力すると患者リストが表示される。

 トリアージの開始は、まずPAT入力画面で「アピアランス」「呼吸」「循環」の3項目について、それぞれ該当する評価をタッチして選択する。続いて、バイタルサインの各数値、症状(発熱、咳、鼻水、発疹、下痢など)の有無とそれぞれ症状が出た日時などを入力し、さらにアレルギーや既往歴、服薬歴などを入力してデータをサーバーに送信する。すると、これらのデータを評価基準値と比較した結果に基づくトリアージの自動判定結果が表示される。

川村看護師は「付き添いのお母さんから話を聞きながら記入作業をするので、タッチで入力できるiPadやiPod touchは使いやすい」と話す

 バイタルサインによる評価のうち脈拍数や呼吸数は、月齢(乳児)・年齢による正常値を基準に、標準偏差(±1SD、±2SD)で判定する。またSPO2などは95%、93%などの生理的基準で評価する。これらとPATの情報を総合して自動判定する仕組みだが、「自動判定はあくまでも参考。看護師の判断で最終的な判定を下しています」(川村氏)という。また、水痘(水ぼうそう)や麻疹(はしか)など、小児特有の感染症が疑われる場合の「要隔離」、外科などの診察が必要な場合の「他科紹介」といった項目もトリアージとは別に設けている。

 トリアージは来院後10分以内に開始、3~4分で完了することが求められる。そのため入力操作はできるだけ簡潔にした。ほとんどの項目は選択肢をタッチするだけで済む。タブレットPCに比べてiPadやiPod touchは非常に操作しやすいという。どの端末を使うかは看護師に任せているが、「子どもを支えたり、触わったりしながらトリアージを行うことが多いので、私は片手で操作できるiPod touchをもっぱら使っています」と川村氏。

 FileMaker ProからFileMaker Goへの移行は非常に簡単だったという。「画面の大きさが違うため画面構成を一部変えています。間違った入力をしないよう、できるだけボタン配置を固定し、文字入力も最小限にしました。必要な項目では計算入力画面も設けています。操作応答性に少し不満はありますが、おおむね好評です」(中村氏)という。

ユーザーメードによるシステム化を実践

 こども急病センターは、FileMakerによるトリアージシステムの運用開始から約半年後に、電子カルテシステムもFileMakerで構築、本格運用を始めた。「当初導入した電子カルテパッケージは診療所向けのものでしたが、小児内科の初期救急としては使いにくいものでした。日替わりで勤務する医師の誰もが使いやすこと、初期救急に必要な機能を盛り込んで標準化する必要があったことから、ユーザーの自由度が高いFileMakerで構築した方がよいと判断しました。また、トリアージシステムと電子カルテのデータ連携を高めたかったことも大きな理由です」(中村氏)。

 トリアージシステムからは、患者基本情報やPAT情報、バイタルサイン、問診内容が電子カルテシステムに送られる。医師は診察に際し、転送された情報を参照しながら修整を加えればよいので、診察時間の短縮にも寄与している。

電話相談システムの画面

 2009年度における同センターのトリアージ判定は、「蘇生」が0.03%(9人)、「緊急」が1.91%(633人)、「準緊急」が14.2%(4710人)、「非緊急」が83.1%(27553人)。後送病院に搬送された患者数は596人で後送率は1.7%だった。「一昨年の後送率は2.3%で、一般に小児の初期救急で入院する率は1.5~2%といわれているので、当センターの初期救急診療は妥当だといえます」(中村氏)。また、川村氏も「最重症である『蘇生』判定とした9人の患者さんのうち、医師の判断で後送したのは7人でした。トリアージ判定の緊急度が高いほど後送率が高いという結果が得られていて、私たちのトリアージは妥当性があったと判断しています」と指摘する。

 2010年の診療報酬改定で、小児科医療機関において患者の来院後速やかに院内トリアージが実施された場合の、院内トリアージ加算(30点)が新設された。「しかし、きちんとデータとして成果を示していかないと、将来的にこの診療報酬加算がなくなる可能性もあります。適正なトリアージを実施するためのスキルアップは当然必要で、正確な集計データも示していかなければなりません。そのためのツールとしても、FileMakerは非常に有効だと考えています」(川村氏)と述べた。

 同センターではこのほか、来院した患者の約8割が非緊急であることに加え、電話による受診すべきかどうかの問合せが多いことから、電話相談を効率化するための電話相談システムをFileMakerで構築している。相談内容や症状、どのように対応したか、相談者が納得したかどうかなどを、ヘッドセットで電話応対しながらシステムに入力する。相談後に来院することになった患者の相談内容は、プリントアウトして受付と医師に送付し、業務の効率化に役立てている。まさにユーザーのための、ユーザーメードによる医療IT化を実践している医療施設といえよう。

(増田克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)


注:日本ユーザーメード医療IT研究会(J-SUMMITS)( http://www.j-summits.jp/
FileMaker、Excel、Access、VBAなど 市販アプリケーションソフトを駆使して、医療者自らの手で業務に使用するITシステムを構築する活動の普及、促進を図ることを目的に、2008年に発足した研究会。医療者自作システムの会員間の共有による利活用の促進を図りながら、医療者自作システムとベンダー製システムとの連携による調和融合によって、医療者に役立つIT実現を目指して活動している。


■病院概要
名称:公益財団法人 阪神北広域救急医療財団 阪神北広域こども急病センター
所在地:兵庫県伊丹市昆陽池2-10
開設:2008年4月
理事長:中村肇氏 センター長:山崎武美氏
診療科目:小児科
診療担当医:阪神北広域救急医療財団所属医師および地元医師会医師
Webサイト: http://www.hanshink-kodomoqq.jp/
導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Server」「FileMaker Pro」「FileMaker Go」、iPad/iPod touch