また、管理者用画面として受診者一覧画面が受付順に表示され、受付時、iPadを渡す際、計測開始時、データ転送時のそれぞれで受診者名をタッチすることで、「待機中」「問診中」「計測中」「送信完了」「診察開始・終了」など受診者ステータスが色分けされて表示される。  

受診者一覧画面が受付順に表示される管理者用画面。ステータスが分かる
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 これらのステータスはそれぞれ時間が記録されるため、待ち時間が長い、計測が済んでいるのに診察まで時間がかかっている、といった統計データを得ることができ、患者満足度向上に向けた基礎データとして活用が可能だ。

FAQが受診者の疑問・不安解消に一役買う

 新生児健診用問診ツールで工夫されている点は、単に問診票のデジタル化だけでなく、母親の疑問や不安の解消に役立てるために、FAQを組み込んだコンテンツとしたことだ。その理由を、「多くの母親はほとんど同じことに不安や疑問を感じ、診察の際に質問してきます。もちろん、それに1つ1つ答えることは大切なことですが、同じ質問が多いのであれば、あらかじめよくある質問と回答例を診察前に提供してあげたらどうかと考えたわけです」と吉田氏は語る。診察時に同じことを答える時間のムダを省くことは、母親がもっと心配に思っていることに対して限られた時間でより丁寧な説明を可能にする。それが満足度の向上にもつながるのでは、という思惑があったからだ。

夫婦で来院した受診者「説明を受けなくても操作できる」

 1カ月健診に夫といっしょに来院したある若い母親も、このFAQは参考になると評価している。「初めての子供なので、わからないことや不安なことばかり。先生に聞きたいことが山ほどあり、全部ノートにメモしてきました」。問診ツールを操作する若い母親は、質問・回答例があることで、自分の疑問・不安がよくあることなのか、特別なことなのか理解できたという。「不安に思ったことが、実際にはよくあることだったりすると安心します」と不安・疑問解消にも役立っている様子である。

 iPadを自ら操作することについては、普段からスマートフォンなどに慣れ親しんでいることもあって、説明を受けなくても操作できるという。「赤ちゃんを抱きながら紙の問診票に記入するのに比べたら、はるかに楽です」。インタビューした受診者は夫婦で来院していたので夫が操作していたが、2人で話しながら質問・回答を見て納得したりしているうちに新たな疑問に気付くこともあるという。

 吉田氏は今後、FAQの内容を充実させるとともに、質問・回答例をプリントアウトして持ち帰ってもらうことを考えている。「その場で疑問が解消されても家に帰ったら忘れてしまった、旦那さんやおばあちゃんに聞かれても説明できない、といったケースもあると思います。外来待合室にプリンターを設置して、イラストなどを使った丁寧な回答を用意し、プリントアウトして持ち帰ってもらえるような環境を構築していきたい」(吉田氏)と述べる。

 また、iPadの導入台数を増やせれば、待ち時間を利用して乳児の育児コンテンツなど参考になる情報提供にiPadを利用したり、「診察時間が来たら、(相手とビデオ通話ができるアプリの)FaceTimeで呼び出したり、といった利用法もあります」(吉田氏)と、患者満足度向上につながる有効利用を考えている。

電子カルテパッケージで不十分な産科・新生児医療の機能を補完

 ベルクリニックをはじめ、ベルネットグループの各クリニックでは富士通の電子カルテシステム(HOPE/EGMAIN-NX)と、冒頭で触れたFileMakerで作成した産科・新生児管理用データベースを連携した医療情報システムを運用している。「既製の電子カルテパッケージは、妊婦健診管理や助産録、新生児管理の機能などが不十分で、使い勝手がよくありません。そこで、FileMakerを使って開発した産科データベースと新生児管理データベースを診療業務のメインで利用し、正式な診療録として保存するために電子カルテパッケージにデータを転記するという仕組みで運用しています」(吉田氏)。

 新生児管理データベースは、新生児も独立した入院患者として扱い、出生時からの経過記録を詳細に入力、管理できるように設計されている。例えば、パスのような仕組みを有する定期業務では、出生時に登録したときから何日目に何をすべきか表示され、その記録を管理できる。体重変化の経過記録では、当該日の体重を入力すると出生時からの増減比、前日との増減比などが計算され、規定値を超えて減ったときにはアラートが発生する。

 新生児黄疸の光線療法適用に際しても、あらかじめ基準値を決めておき、自動的に計測データと比較して適用するかどうか判定されるようになっている。また、ロイヤルクリニックのように小児科医が非常勤の施設では、勤務日以外のイベント発生で質問したいことを「小児科医依頼」としてコメントを残す機能などもある。

 一方、産科データベースでは、妊婦健診の際の体重、血圧、尿タンパクなどのデータ管理フィールドや通常のSAOP記載などのほか、胎児スクリーニングで実施すべき項目が網羅され、データ管理ができる。また、助産師外来でどのような会話があったかの記録、出産時の助産録も記載・管理できる機能を持っている。

 こうした新生児管理データベース、産科データベースの情報は、診察終了時に「診察医署名」記録が付され、PCのクリップボード機能を使ってコピーペーストで電子カルテに転記できるようになっている。

iPadから送信されたデータは、新生児管理データベースにある乳児健診画面の「外来カルテ」タブに最大5回までの受診記録として保存される
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 産科データベースの利活用について丹羽氏は、「葵鐘会では、妊婦に関して週数のどの時点で何のデータを必須記録とするか決められており、それを法人全体で統計処理して活用しようとしています。電子カルテパッケージでは、こうした妊婦を横串にしたデータ集計はできません。FileMakerによる産科カルテは、こうしたデータの記載・集計が可能です」と指摘する。実際に、異常分娩の症例は多く存在するものの、「正常分娩のデータはほとんどないのが実状です。正常分娩のデータをグループで蓄積して、将来大いに活用していきたい」(丹羽氏)と語った。


■病院概要
名称:ロイヤルベルクリニック
所在地:愛知県名古屋市緑区鳴海町水広下93-195
開院:2010年12月
院長:丹羽慶光氏
診療科:産科、婦人科、麻酔科、歯科、小児科健診
病床数:17床
Webサイト:http://www.royalbell.jp/
導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Server」「FileMaker Pro」「FileMaker Go」