一般社団法人日本医療福祉設備協会会長 社会保険横浜中央病院長 大道久氏
一般社団法人日本医療福祉設備協会会長 社会保険横浜中央病院長 大道久氏
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QLife 代表取締役 山内善行氏
QLife 代表取締役 山内善行氏
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ソフトバンクテレコム ヘルスケアプロジェクト推進室長 古屋初男氏
ソフトバンクテレコム ヘルスケアプロジェクト推進室長 古屋初男氏
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パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子
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 11月14~15日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で第41回日本医療福祉設備学会が開催された。その中の1セッションとして2日目に行われたのが、産学協同医療連携シンポジウム(日本医療福祉設備協会、ソフトバンクテレコム、医療タイムズ社、GEヘルスケア・ジャパンが共催)。講演とパネルディスカッションで、医療・福祉現場でのICT活用状況と今後の展望・期待が産業界と学会の両方から報告された。
  

ICTはすでに医療福祉に欠かせない

 基調講演に立った一般社団法人日本医療福祉設備協会会長 兼 社会保険横浜中央病院長 の大道久氏は、まず山形県天童市東村山郡医師会で在宅医療にiPadが活用されていることを紹介した報道記事に言及。「今日、ICTは期待されているというレベルではなく、医療の現場で欠かせない役割を担うまでになっている」と語った。また同氏は、診療報酬請求システムから始まる医療分野におけるICT化の歴史を振り返り、2006年の医療画像のデジタル化による診療報酬加算、2010年の診療録外部保管承認など、診療点数面での後押しもあって活用が進んできたと説明した。

 最後に大道氏は、医療・介護分野におけるICTの今後の利活用の方向性を、4つの枠組みに整理した。

 1つ目は、電子化されたレセプト(診療報酬明細)データの活用だ。これを効率化や合理化、公平性に資する観点でしっかりと分析・活用していく姿勢は、国民の納得を得られる医療を展開する上で重要だと主張した。2つ目は医療・介護などの連携部分での利用。在宅医療を中心とした医療・介護連携にクラウド・コンピューティングが役立つことや、タブレットPCやスマートフォン、医療向けアプリを十分に活用することなどに、医療現場は大きな期待を抱いているという。

 3つ目は個人による電子化された医療・健康情報の活用。いわゆるPHRである。「個々人の健康履歴をクラウドで扱うことには合理性がある。手元に置くより配慮された環境で管理し、いつでも引き出せるようにする。発作で倒れてもスマートフォンで病歴が分かるようになれば、医療の質向上にも貢献する」(大道氏)。4つ目は番号制度の導入による利便性の向上だ。公平なサービスの提供、所得による調整などに活用するために番号制度を導入することは、高度に合理的な社会を形成するために欠かせないと主張して、大道氏は講演を締めくくった。

医療向けアプリケーションに求められる5つのポイント

 QLifeは総合医療メディア企業で、日本最大級となる病院検索サイト、医薬品検索サイト、医療情報サイトなどを運営している。「医療ボードPro」は、医師が患者指導などのために利用する補助ツールで、クラウド上のライブラリにあるスライド・動画を自在に選択し、ダウンロードして利用できる。逆に、医師が自分で作成したスライドや動画を、アップロードして共有することも可能。現在、登録利用者数は2万5000人を超えた(スライド数3300枚、動画数123本)。

 代表取締役の山内善行氏は、医療向けアプリケーションで成功するカギとして、患者満足、時間効率、オフライン、個別性、共感という5つのキーワードを挙げた。患者満足というのは、何のためのアプリケーションかということを確認するための“御旗”だという。
「何を目指しているかわからなくなっても、患者のためという明確な“御旗”があればいつでも原点に戻れる」と山内氏は語る。時間効率とは“時短”のことで、常に時間に追われる医療現場に対しては、ツールの利用で時間を短縮できることを明確に示す必要があるという。ネットワーク環境が十分でない医療現場も多いため、オフラインでの利用を可能にしておくことも重要な要素となる。

 山内氏は「個別性とは標準化した中にカスタマイズ可能な箇所を設けること、共感とはIT中心ではなく人と人が共感できるツールとして作りこむこと」を意味していると言う。結局は、医師、看護師、患者など、現場の生の声を十分に聞き、それを反映したアプリケーション開発を心がけるのが肝心、と山内氏は力説した。 

これからの医療はクオリティ・オブ・ライフ実現を目指す

 ソフトバンクテレコム ヘルスケアプロジェクト推進室長の古屋初男氏は、「医療分野は他の産業に比べてICT化が遅れている」と感じたという。診療録の外部保管が認められ、ソフトバンクテレコムが医療の分野に本格的に参入した2010年のことだ。

 同社は医療IT分野では後発組ながら、データセンターリソースなどを生かして、遠隔医療システムや地域医療連携システム、周産期医療や医師会向けのビデオカンファレンスシステムなどを提供している。また、今後立ち上がるサービス機能つき高齢者住宅での利用を前提に、グループ会社であるウィルコムのPHSを利用した緊急呼び出しシステムを開発中である。

 古屋氏は、これからの医療の目的は一人ひとりのクオリティ・オブ・ライフを実現することにあると考えており、これを実現するキーワードとして以下の3点を挙げた。
 まずは、自立・自律だ。周囲が至れり尽くせりで面倒を見るのではなく、シニアが自分自身を支えて周囲と共生することが重要だ、と同氏は語る。そのために必要なのが五感の刺激。その結果、人間が本来持っているセンサー機能をフルに活用して、元気でアクティブな生活を送れる。人対人、人対自然、人対機械など様々なパターンで五感を刺激して、肉体と精神の健康を保持していく。

 古屋氏は、五感を刺激するために欠かせないのがコミュニケーション。一部で行われている街の活性化計画などは、「シニアの“外へ出て交流を図ろう”という意欲を高める上で望ましい」と古屋氏は語った。「人間は人として尊厳を前提に、健康や他人との絆、自立、肉体と精神の調和などを求めている。これらを満たすのに良質なコミュニケーションが重要で、その先にこそ医療に依存しない健全な死 “ピンピンコロリ”があると信じている」(古屋氏)。

ICT活用はもはや必然、ビジネスモデルの確立を急げ

 続くパネルディスカッションでは、日本医療福祉設備協会理事 医療法人社団千禮会 信川益明氏をモデレータに、3氏が登壇し、医療・福祉分野におけるICTについて討論した。大道氏は、「在宅医療などを中心に機能分担と連携が鮮明になりつつあるこの領域で、早晩ICT活用に遅れた医療機関は現場を去ることになるだろう」と語り、山内氏も「患者はもはや病院をどこも同じとは思っておらず、選択のためにICTを活用している。病院もICT使って、一生懸命連携を進めようとしている」と現場の声を代弁した。

 一方、古屋氏は、「ビジネスの視点からすると、医療・福祉に出ている中央省庁からの補助金を集約すべき。補助金が尽きるとエンド・オブ・サービス、という現実も見直さなければならない。お金をかけるべきところにはかけて、その上で運用できるビジネスモデルの構築が求められる」と問題提起していた。これらの発言を受けて、信川氏は「家電がスマートフォンで操作できる時代。医療・福祉設備機器も、ICTでスマート化していく必要がある」とまとめた。