さらに、「職種間で情報が繋がる点も大きいですね」と森氏。というのも、紙ベースで行っている現在の記録は、情報が職種ごとに分かれている。そのため、看護婦の記録は看護婦のみが、栄養士の記録は栄養士のみが、介護の記録は介護スタッフのみが持っているというサイロ化した状況にある。これをひとつのシステムにまとめて連携すれば、ケアプランの作成や実践にいい結果をもたらすと期待している。そして現在、ティアックシステムクリエイトの介護記録システム「コメットケア」の導入を進めている。

建物内部の様子
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 コメットケアは、無線LAN環境下でタブレット端末を使って介護者が記入したさまざまな記録を、リアルタイムで共有できる介護記録システム。タブレット端末で入力した情報は、無線LANですぐにサーバーにアップロードされるため、他の職員もリアルタイムで情報が確認できるようになる。専用のアプリケーションが不要で、Webブラウザーで入力・確認が可能となるため、タブレット端末だけでなくパソコンでも利用できる。体温や血圧などの定形データは介護をしながらタブレット端末で入力し、利用者のその日の様子や会話の内容などの非定形データは業務が終了してからパソコンで入力するといったフレキシブルな使い方もできる。

 もちろん、介護スタッフにとっては、非定形の文章をタブレット端末経由で入力する方が手書きよりも手間がかかる可能性は高い。しかし、介護業界では「利用者が“どんなことを話していたのか”、“今日はどんな表情をしていたのか”といったことが重要」(森氏)という側面がある。

鶴の苑統括マネージャーの市原昭子氏
鶴の苑統括マネージャーの市原昭子氏

 鶴の苑統括マネージャーの市原昭子氏も、「高齢の方は微妙な変化をいち早く発見しないと、大きなことになってしまう場合があります。お客様の変化をいち早くみんなで共有し、介護のスピードアップをはかることが重要」と考えている。そのため、市原氏はスタッフ同士の情報が共有できる介護記録システムを将来導入することをスタッフに打ち明け、「不得意な人には去年あたりから勉強してもらっています。今は土壌を耕している段階です」と説明した。「もちろん『どうなるのかな』という雰囲気はあります。でも、『そうなったら便利だよね』とか『共有できたらいいね』という声もあります」と現場の状況を説明した。

 ただし、無線LANや個人情報を取り扱う介護記録システムを利用するうえで、情報漏えい防止やセキュリティ強化に注意を払う必要がある。無線LANソリューションのセキュリティ対策としては、ソリトンシステムズの認証用サーバー「NetAttest EPS」を設置し、万全の安全体制を取っている。NetAttest EPSは、クライアント(ノートパソコンやタブレット端末)に証明書を発行する。その証明書がない端末は無線LANに接続できない仕組みとなるため、接続するクライアントを制限することが可能。証明書の発行作業は当初1回で済むため、2回目以降は自動的に認証作業を行いスムーズに接続できる。また、証明書が発行された端末が盗難などにあったとしても、管理者が失効手続きを行えば接続できなくなる。