また、介護の世界では保険を扱う関係上、多くの記録を残す必要がある。現状はまだ紙ベースで記録しているが、「パソコンで利用できる介護記録システムを、ぜひ導入したいと考えました。しかし、ここでもパソコンの台数が導入のネックとなりました。スタッフが記録を入力するには、パソコンが必要となるので、結局は少ないパソコンの奪い合いになってしまうのです」(森氏)。

低層棟の屋上にある庭園
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 紙ベースでの記録を効率化すれば、必然的にパソコンで利用する介護記録システムに移行する必要がある。しかし、結局はパソコンの台数の不足が原因でなかなか移行に踏み切れない。そんなジレンマを抱えたなかで、森が着目したのが、ここ数年で登場したiPadをはじめとするタブレット端末だった。「これを使えば、これまでの問題がすべて解決できると思いました」と森氏は回想する。

 森氏は、タブレット端末の魅力に「価格の安さ」「置き場所を取らないサイズ」「立ち上がりの速さ」を挙げた。端末が安いので多くのスタッフに支給でき、立てかけて置いておけば場所も取らない。そして、なにより「持ち運びが簡単にできるため、介護の合間に入力できる点もいいですね」と語る。このような複数の利点から、タブレット端末は最適のアイテムだった。ただし、タブレット端末をネットワークにつなげるには、当然無線LANが必要になる。そこで森氏は無線LANの導入を決断した。

南欧風リゾートのような瀟洒な外観
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 森氏の考える無線LANソリューションの利用イメージは「タブレット端末を持ち歩きながら、介護記録システムを入力していく」というもの。「持ち歩く」ことがキーワードとなるため、合掌苑は特殊な無線LANソリューションを導入した。そもそも、通常の無線LANは部屋や階を移動することでアクセスポイント(AP)が切り替わる際に、通信が途切れることがあるという欠点を抱えている。

 しかし、今回合掌苑が導入したメルー・ネットワークスの無線LANソリューションは、仮想化することで複数のAPを1つの大きなAPとして利用できる特徴を持っている。これにより、建物内を移動してもAPが切り替わらないのと同様の状態を維持できるため、通信の途切れがなくなりネットワーク環境が安定する。

入居室内の様子
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 介護スタッフは、利用者の部屋に行って介護を行いデータを入力し、また次の部屋に行って介護して入力という作業を、一日中繰り返す。そのために、部屋や階を移動しても利用できるソリューションを重視したのだった。なお、APの仮想化は、メルー・ネットワークスが特許を持つ独自の技術で、移動しながらパソコンやタブレット端末で作業することの多い医療機関に多くの導入実績がある。

 一方で、現在導入を検討している介護記録システムでは、データの記録はもちろん、スタッフ同士による情報のリアルタイム共有を実現しようと、森氏は考えている。「たとえば、Aさんがお風呂から上がった、という情報を、複数のスタッフがリアルタイムで確認できるようにしたいのです」(森氏)。リアルタイムの情報共有により横の繋がりが生まれ、スタッフ同士の連携が効率化することで、業務やサービスの向上を図りたいという狙いがあってのことだ。