福島県いわき市の石井脳神経外科・眼科病院は、外来電子カルテシステムの導入を機に、これまで蓄積してきたFileMakerのデータベースを診療業務に引き続き有効活用するために、医事会計ソフトとの連携システムを構築した。日医標準レセプト「ORCA」に登録された患者基本情報や病名を、FileMakerで作成した入院システムなど各種ファイルに自動的にインポートできるようになり、システム運用の効率性を大幅に向上させることに成功した。


石井脳神経外科・眼科病院の外観
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 いわき市は福島県浜通りの南部に位置し、県内最大の人口と面積を持つ。同市小名浜地区に1985年に開設された石井脳神経外科・眼科病院(48床)は、脳神経外科における一次、二次医療を担い、脳ドックなど予防医療にも取り組んでいる。また、日本医師会常任理事を務める石井正三氏が理事長に就く医療法人社団 正風会としては、同病院に加えて石井医院、老健施設「いきがい村」、デイサービスセンター「テルメ照島」を展開し、医療と介護を連携した医療・福祉サービスを提供している。

外来電子カルテ導入を機にFileMakerとORCA連携を実現

 石井脳神経外科・眼科病院が診療業務にコンピュータを利用し始めたのは、病院長の髙萩周作氏が赴任した15年前にさかのぼる。「福島医大の研修医時代から、FileMakerで担当症例や手術所見などのデータベースを作成していました。当院では、理事長の好みで各診察室にMacが導入されており、自作したファイルを紹介したらそれを皆で使うようになったのがきっかけです。それ以降、サーバーを立て院内LANを自ら構築し、入院患者データベースをベースに各種ドキュメントの作成・管理などを開発しながら、診療業務で利用してきました」と髙萩氏は振り返る。

 その後、医事会計システムとして日医標準レセプトの「ORCA」を導入。その後もPACS(横河医療ソリューションズ製ShadeQuest)、画像院内配信システムなど、医療ITを整備してきた。ただし、患者基本情報をすべてシステムごとに入力する必要があり、そのために医師や部門スタッフ、事務員の負担が大きいことが課題となっていた。そこで、外来電子カルテの導入をはじめとする院内システムの整備を進める中で、システム間で患者基本情報を連携する仕組みの構築に取り組んだ。

病院長・正風会本部医療関連部門マネージャーの髙萩周作氏
病院長・正風会本部医療関連部門マネージャーの髙萩周作氏

 まず、電子カルテの導入検討に際しては、既に導入されていたORCAとスムーズに連携できるシステムを候補として考えた。「もともとORCAを導入するときに、医事会計システムとオーダリングや電子カルテシステムとを切り離して導入したい、と考えていました。両システムが独立しているケースでも、同一メーカーの場合、たいていはシステム更新時に同時にバージョンアップしなければならず、投資コストが大きな負担になるからです。医事課職員の強い要望により、ORCAを使い続けることが基本姿勢でした」(髙萩氏)という。電子カルテシステムは、ORCAと連携がスムーズであること、低コストで医療スタッフが使いやすいことという条件を満たす「Doctor’ s DeskⅡ」(シィ・エム・エス製)を採用し、2010年に稼動させた。

 Doctor’ s DeskⅡは、原則として無床診療所を対象とした電子カルテのため、入院関連システムは従来通りFileMakerを利用することに決めて院内システム整備を進めた。ORCAとDoctor’ s DeskⅡ、PACSは直接接続できたが、FileMakerとの連携が課題として残った。これを解決するために、「患者基本情報や病名など最も正確な情報が記録されているのがORCAであり、そのデータをFileMakerに取り込むことがベスト」(髙萩氏)と方針を決定。FileMaker Business Alliance(FBA)パートナーであるアルファシステム(本社秋田市)へORCA連動FileMaker DBソリューションの開発を依頼し、データ連携を図った。

ORCAとFileMakerのデータ連携の仕組み
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FileMakerによる入院リストの患者情報にORCAからデータがインポートされる
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