「現在、企業や研究機関でさまざまな生体センサの開発が進められている。しかし、それぞれのセンサ(開発企業)ごとにビジネスモデルを構築するのは簡単ではない。そこで我々は、こうしたセンサと自由に連携できる、いわば“オープン・プラットフォーム”の健康管理システムの開発を進めている」――。

 このように語るのは、2013年7月17日に開催する「次世代医療機器サミット2013 ~次世代センサが切り拓くヘルスケアの未来~」において、「センサで取得した生体情報の活かし方」と題して講演する予定の、奈良女子大学 社会連携センター 特任准教授 梅田智広氏である。


宮田喜一郎

 神戸新交通ポートアイランド線の市民広場駅から徒歩数分。築32年のマンション最上階の一室に入ると、建物の外観からは想像が付かない高級感が漂ってくる。そう、この部屋は、リノベーションを施したモデル・ルームである。

 リノベーションの施工を担当したシー・エル・シー 代表取締役の片岡成一朗氏は、次のように語る。「築32年でも、『ここまでできる』ということを示したかった。さらに、このモデル・ルームには、最新のヘルスケア・システムも取り入れている」。

 このヘルスケア・システムこそが、冒頭の奈良女子大学 梅田氏の発言にある“オープン・プラットフォーム”の健康管理システムだ。具体的には、奈良女子大学とライフビジネスウェザーが共同開発した「健康みはり」である。

健康と天候を連動

宮田喜一郎
健康みはりの画面例

 奈良女子大学は現在、文部科学省のイノベーションシステム整備事業 地域イノベーション戦略支援プログラムとして、けいはんな学研都市ヘルスケア開発地域が実施している研究(事業期間は平成23~27年度の5年間。事業費は、各年度約1億6000万円)に参加するなど、ヘルスケア関連技術の開発を進めている。一方、ライフビジネスウェザーは、大手お天気会社。

 この2者がタッグを組んで開発した健康みはりの大きな特徴は、健康と天候を連動させたシステムであることだ。例えば、利用者が入力したり各種のセンサで取得したりした生体情報と、その日の天候状況を踏まえ、生気象学に裏付けされた解析に基づき利用者に健康・生活のアドバイスを提示する機能を備える。「体調は、気圧など天候状況の変化に大きく左右される。天候と連動させてこそ、本当に意味のあるシステムになる」(奈良女子大学の梅田氏)。

生活支援システムに

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コガソフトウェアの「孝行デマンドバス」の予約画面を表示させた様子

 さらに、もう一つの特徴が、単なる健康管理システムではなく、言わば「生活支援システム」的な機能を持たせていることだ。例えば、コガソフトウェアの「孝行デマンドバス」のシステムと連動させて、デマンドバスの配車状況の確認や予約などをできるようにしている。さらに、凸版印刷の電子チラシ・サービス「Shufoo!(シュフー)」とも連動し、健康みはり上での買い物などを可能にした。「利用者が、必ず毎朝チェックするようなシステムにする」(奈良女子大学の梅田氏)。

 つまり、健康を軸に、天候や外出、買い物などの生活を連動させ、地域密着型のシステムとしての形態を採る。このため、健康みはりについては、このモデル・ルーム以外では、自治体単位での実証が進められる予定だという。

 なお、健康みはりは、パソコンやタブレット端末、スマートフォンなどに対応するASPサービス。モデル・ルームにおいては、リビングのメイン・モニター(テレビ)にこのアプリケーションを表示させるようにしていた。

24GHzの無線センサ

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寝室の天井の壁の内部に呼吸センサが埋め込んである

 さらに、モデル・ルームでは、寝室に呼吸センサを設置。同センサで得た情報をリビングのモニターに表示させた健康みはり上で確認できるようにしていた。これにより、例えば同居する高齢者の睡眠状態などの確認をリビングでできるようになるという。遠隔地に住む家族が、タブレット端末などで健康みはりにアクセスすれば、同様に呼吸センサの情報を確認することもできる。

 設置していた呼吸センサは、24GHzの電波を利用する非接触型。寝室の天井に埋め込んだ電波の送受信機で、入射波と反射波の位相差から人の呼吸状態や、動きなどを検知する仕組みである。送受信機は壁の中に埋め込んであり、外からは目視できないため、「センサが存在することが気にならない」(奈良女子大学の梅田氏)。さらに現在、一般の規格のLED電球に、この送受信機(呼吸センサ)を内蔵する開発も進めているという。

宮田喜一郎
呼吸センサで得た情報をリビングの画面上に表示させている様子

 呼吸センサで得たデータは無線LANで健康みはりに送信する。モデル・ルームでは、この呼吸センサのみを配置していたが、その他にも各種のセンサと連動させることができる。奈良女子大学としては、これら各種センサの部分はあえて自ら開発するのではなく、さまざまな企業や研究機関で開発が進むセンサと連動させることを想定する。むしろ、前述のように、健康みはり自体のアプリケーション側の価値を高めていくことで、「個々の生体センサの側が、『これとつなぎたい』と思うオープン・プラットフォームにする」(奈良女子大学の梅田氏)考えだ。