2013年は、家電機器などの電力を管理する「HEMS(home energy management system)」の普及に向けた動きが加速した年だった。それを象徴するのが、同年5月に経済産業省が実施した「電気用品安全法(電安法)」の技術上の基準の改正だ。

 電安法は電気製品が原因となる火災や感電などを防ぐことを目的とする法律で、個々の品目ごとに安全性や試験方法などを技術基準とその解釈で規定している。従来の電安法の基準は、家電が設置されている屋内で操作を行うことを前提としていたため、「赤外線」と「電力線搬送」、あるいは「一部の機器を対象とした音声による遠隔操作」を除くと、遠隔操作で家電の電源をオンにする機能を盛り込むことを禁止していた。

 スマートフォンを使って外出先から白物家電を遠隔操作するような機能は、HEMSの売り物の一つである。従来の基準でも電源オフの遠隔操作機能は搭載できたが、オフにしたものを遠隔から再びオンにできないというのは消費者にとって気配りを欠く機能と受け取られかねない。実際、電安法の基準を満たさないとして、パナソニックが2012年9月に家庭用エアコンのスマートフォン連携による遠隔地からの電源オン機能などを削除したことが大きな波紋を呼んだ。

 電安法の規制がHEMSの普及を阻害することを懸念した業界団体「日本電気協会」の電気用品調査委員会は、経済産業省に対して技術基準の解釈見直しの必要性を提案。経産省がこの提案を受け入れ、見直しの検討が始まった。同委員会の中に設置されたタスクフォースで遠隔操作に関する論点やリスクなどを整理して「遠隔操作に対する技術基準の解釈の追加要望」という資料を作成。この資料を元に、経産省が技術基準の見直しを進め、今回の改正へと至った(要望資料は電気用品調査委員会のホームページに公開されている)。

 電安法の技術基準には「危険が生ずるおそれのないもの」であれば遠隔操作が許されるという項目がある。従来の基準では、「一部の機器を対象とした音声による遠隔操作」のみがこれに該当した。今回の改正ではこの除外項目の範囲が拡大され、一定の条件を満たせば「危険が生ずるおそれのないもの」として遠隔操作機能を搭載してよいことになった。

 今回の改正を受けて、家電メーカー各社のHEMS対応の動きが活発化している。パナソニックは、いったん削除した外出先からエアコンの運転をオンにしたり、風量、風向き、温度などを設定できる機能を2013年7月に復活。シャープやダイキン工業、三菱電機、日立製作所なども同年夏から秋にかけて、同様の機能を備えるHEMS対応のエアコン新製品を相次いで発表した。

 家電の遠隔操作は、消費者にHEMSの便利さや快適性をアピールする上で重要な機能の一つと言える。電安法の改正で遠隔操作機能が家電に搭載可能になったことは、省エネの“切り札”として期待されるHEMSの普及に弾みをつけそうだ。2014年はエアコン以外にも、遠隔操作を売り物とするHEMS対応家電が登場する可能性もある。