衛星の信号を捕捉せよ!

 軌道に投入された衛星と交信して、ミッションを遂行していくことを「運用」という。打ち上げ直後からは、「初期運用」というフェーズに入り、不測の事態に備えて細心の注意を払いつつ、様々な確認作業を実施する。そして、衛星の状態が安定してミッションを遂行できる状態になると、「定常運用」フェーズに入る。

地上局アンテナ
地上局アンテナ

 初期運用で最初に実施しなければならないのは、衛星との交信を確立することだ。衛星から送信される信号には、地上からのコマンドに対する応答と、自発的に送出されるビーコンがある。打ち上げ直後は、まずビーコンを受信して衛星の生存を確認する。ビーコンを正しく受信するには、衛星の軌道情報から位置を予測してその方向に地上局アンテナを正しく追尾させなければならない。しかし、低軌道衛星は周回速度が速いため(約8km/秒)、軌道情報の誤差が大きいと予測した方向に衛星が存在しないことになり、ビーコンを受信できなくなってしまう。また、誤差がわずかであっても時間の経過とともに、衛星の予測位置の精度は劣化する。

 WNISAT-1の場合、打ち上げ前にロケット側から提供された投入予定の軌道情報を基に地上局アンテナを追尾させたが、打ち上げから4時間経過した最初の日本上空通過パスでは、ビーコンの受信強度が想定よりも弱かった。想定された投入予定軌道からずれている可能性が高い。そこで、アンテナを固定して衛星がアンテナの前を通過する瞬間の周波数変化(ドップラシフト)を測定し、軌道情報の誤差を補正することにした。こうして2日目以降は衛星信号を安定して受信できるようになった。幸い投入予定軌道からのずれは深刻ではなく、当初の予定軌道が楕円だったものが、わずかに真円に近づくという好ましい変化だった(本来は地球観測には真円に近い軌道が理想なのだが、相乗り衛星の場合、ロケットから切り離される順番が後になると、その分だけ真円からずれて楕円軌道になってしまう)。

スペクトラムアナライザで受信したビーコン信号
スペクトラムアナライザで受信したビーコン信号

衛星補足の心強い味方NORAD

 実は超小型衛星の軌道推定には心強い味方が存在する。NORAD(北米航空宇宙防衛司令部:米国とカナダの共同運営組織で、サンタクロースの追跡などでも話題になる)が、レーダー網で軌道上の人工物(人工衛星や宇宙ゴミ「スペースデブリ」)の観測と軌道推定を行っていて、得られた軌道情報はTLE(Two Line Element)として公開されているのだ(NORAD Two-Line Element Sets Current Data)。この情報で衛星運用に十分な精度の情報が得られる。下記の例のように文字通り2行のテキストで軌道情報が記載されており、ケプラー軌道6要素や衛星のID情報などが含まれている。

NORAD TLE形式の軌道情報の例
WNISAT-1
1 39423U 13066H   13342.78759719  .00001111  00000-0  23477-3 0   219
2 39423  97.7793  54.1562 0180880 134.7569 226.8498 14.51374885  2511