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埼玉・桶川、池に浮かび、渡り鳥が羽を休めるメガソーラー

氾濫抑制用の貯水池を、収入源と災害時の非常用電源に

2013/11/12 00:00
加藤 伸一=日経BPクリーンテック研究所
図1●ソーラーオンザウォーター桶川の航空写真
(出所:ウエストホールディングス)
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 メガソーラー(大規模太陽光発電所)というと、一般的には、広々とした平坦な土地に、太陽光パネルを敷き詰めて発電するイメージが強い。そんな中、水に浮かべるという方法を実現したのが、埼玉県桶川市の東部工業団地内の貯水池にある「ソーラーオンザウォーター桶川」である(図1)。河川の水量を調整するために造られた貯水池で、面積が約3万m2の池のうち、約1万2400m2の部分に、約4500枚の太陽光パネルが浮かんでいる。秋から冬にかけては、太陽光パネルを浮かべる台で、渡り鳥や水鳥など、さまざまな鳥が羽を休めている(図2)。

図2●渡り鳥や水鳥が羽を休める
(出所:日経BP)
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 湖や池に太陽光パネルを浮かべる方法の利点は多い。湖や池の所有者にとって、従来は考えられなかった賃料や事業税による収入を得るチャンスとなる。また、発電事業者にとっては、格安の賃料で借りることができる上、造成費が不要で、除草などの維持管理費が相対的に安くなる。さらに、夏の高温期に発電能力が低下する特性を持つ結晶シリコン系太陽光パネルを使っても、涼しい水面に浮かべることで生じる冷却効果によって、太陽光パネルの温度の上昇を抑えられ、地上設置型に比べて発電量を確保しやすくなる。ただし、設置に関わるコストが高額となるため、そのコストアップを吸収し、いかに採算を確保していくのかが課題となる。

 ソーラーオンザウォーター桶川の出力は約1.2MWで、「恐らく、水上の太陽光発電所としては、世界最大の規模」(ウエストホールディングスの永島歳久専務)。2013年7月に発電を開始し、年間の予想発電量は約125万kWhで、4人暮らしの一般家庭で約400世帯分の電力使用量に相当する。

 貯水池の所有者は桶川市で、メガソーラーを建設し、発電事業者となったのはウエストホールディングスグループである。桶川市にとっては、メガソーラーの建設によって行政の資産である調整池を有効に活用したいという狙いを実現できた。

 桶川市は、発電事業者となるウエストホールディングスの関連会社である日本メガソーラー発電(東京都渋谷区)から、20年間にわたって年間で185万9000円という水上の使用権料を得る。これまで貯水以外の機能がなく、非常時以外は活用せず、維持管理費だけがかかっていた。新たに貯水池から現金収入を得られることは、大きな利点となる。

 この貯水池の主な役割は、この地域に多い中川や綾瀬川、その支流の氾濫対策である。集中豪雨の際に、増水時の水の一部を貯水池に流すことで氾濫を防ぐ。桶川市などの埼玉県東部に広がる平野には、こうした目的の貯水地が多く点在している。

 自治体の所有という性格上、導入した発電設備には、桶川市の要望により、自立運転機能と移動式蓄電池を備えている。災害時や停電時の地域の非常用電源として利用するためである。通常の売電用として導入した出力500kW機のパワーコンディショナー(PCS)に加え、この非常用電源向けに同250kW機を導入した。いずれも東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製である。

太陽光パネルをどのように池に浮かべたのか

 約4500枚の太陽光パネルを、どのように池に浮かべたのだろうか。貯水池には、地上設置型で使う金属製などの架台の代わりに、いかだのようなプラスチック製の部材に、太陽光パネルを取り付けて浮かべている(図3)。水に浮かべつつも、水面の流れに影響されて、太陽光パネルの位置が大きく動いたり、池の水位が変わって太陽光パネルが傾いたりすることを防がねばならない。

図3●いかだのようなフロートを連結して太陽光パネルを浮かべる
(撮影:日経BP)
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 建設の流れは、いかだのようなプラスチック製の部材をつなげ、所定の位置まで船で運び、太陽光パネルを20枚ずつ取り付ける。この作業を繰り返して太陽光パネルを固定する(図4)。そして、全体が風や水流に流されないよう、四隅から池の底に錨をおろして固定した。風が強い日など、池の水面では波が発生するが、部材の接続部の工夫によって、波による揺れを吸収できるという。

図4●接続箱も水上に
(出所:日経BP)
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 同社によると、今回の貯水池の断面は、底面はほぼ水平で、岸に近づくと斜めにせり上がる、いわば洗面器のような形になっている。ここで問題になるのは、水位の上昇ではなく、下降なのだという。岸の近くまで太陽光パネルを浮かべてしまうと、水位が下がった時に、岸に近い太陽光パネルが、底につくことでせり上がってしまい、発電に支障をきたす可能性がある。そこで、9mの水位差に対応できるような位置まで、岸から離して浮かべる設計とした。9mの水位差を前提にしたのは、池の底に湧水があるために、一定以上は水位が下がりにくいという点を考慮した結果という(図5)。

図5●水位が低い日には、このように池の中の構造まで浮き上がる
(出所:日経BP)
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 太陽光パネルを取り付けるいかだのような部材は、中が空洞となっており、「フロート」と呼ばれる。この部材は、フランスCiel et Terre International社製である。欧米などでは、池などに浮かべる太陽光発電所が先行している。こうした実績の豊富さを重視して採用したという。とはいえ、「桶川のようなメガクラスの規模での採用は珍しい」(ウエストホールディングスの永島歳久専務)ことから、ウエストホールディングスグループと共同開発した部材を導入した。

 太陽光パネルは、フロートに最適な製品として、Ciel et Terre社が推奨する中国のJAソーラー製を採用した。太陽光パネルの設置角度は、15度にした。風圧による影響を小さくし、かつ、発電量を確保することのバランスから決まった。池の上は、ほこりなどが少ないために、地上設置型に比べて、低い角度で設置しても、汚れによる発電量が低下する影響は小さいとみている。

 このほか、水上に太陽光パネルを浮かべて発電するためには、太陽光パネルの背面や側面に入り込む水分を遮断する技術、電気的な接点に水分が浸透することによる短絡を防止する技術、多湿な環境での絶縁抵抗の低下による漏電を防止する技術などがポイントになるという。

普及のポイントは工期の長さと導入コスト

 地上設置型に比べて、導入コストが高いという課題に関して、ウエストホールディングスは投資額などを非公表とする。ただし、ウエストホールディングスグループの既存の地上設置型に比べて、「最初のメガソーラーへの導入ということもあって約3割高いが、今後、低コスト化が進んでいく」と、ウエストエネルギーソリューションの恩田英久社長は話す。フロートの購入コストは、量産効果を発揮しやすいため、今後、採用の増加によって低コスト化が進むことが期待される。

 ウエストホールディングスグループは、地上設置型の出力1MWのメガソーラーの場合、1か月間で建設できると宣言している。これに対して、今回は約1.2MWで設置に3カ月を要したという。ウエストホールディングスの荒木健二執行役員によると、次回以降は、これを約2カ月に短縮できる見通しという。

 工期が長くなるのは、太陽光パネルのフロートへの設置、フロート同士の接続など、太陽光パネルを設置するための一連のプロセスを、技術者が船に乗って作業するためである。こうしたプロセスから、冬の寒い時期に設置するのは難しいという。

 運用や保守については、未知数な面も残っている。まず、除草の必要がない代わりに、藻が絡まってくるために、除去が必要になる。これについては、1年間様子を見て、最適な時期を定めていく。また、人工の貯水池とはいっても、周囲の小川からの流入があり、魚も生息している。こうした生態系への影響に関しても、様子を見つつ配慮していきたいという。

発電所の概要
施設名 ソーラーオンザウォーター桶川
住所 埼玉県桶川市赤堀
土地所有者 埼玉県桶川市
発電事業者 日本メガソーラー発電(ウエストホールディングスの関連会社)
発電開始日 2013年7月19日
発電容量 約1.2MW
EPC(設計・調達・建設) ウエストエネルギーソリューション(ウエストホールディングスの子会社)
太陽光パネル 中国JA Solar社製
パワーコンディショナー 東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
O&M(運用・保守) ウエストエネルギーソリューション
■変更履歴
掲載当初、「桶川市は、発電事業者となるウエストホールディングスの関連会社である日本メガソーラー発電(東京都渋谷区)から、20年間にわたって年間で185万9000円という水上の使用権料と、売電事業による事業税を得る。」としていましたが、売電事業による事業税は、埼玉県に納税するもののため、該当部分を修正しました。 [2013/11/13 13:55] また、年間の予想発電量を「約125万kW」と記載していましたが、約125万kWhの誤りです。 [2013/11/18 13:34] お詫びして訂正します。いずれも本文は修正済みです。