ベビーリーフのパッキング工程。仕様に合わせて複数品種を混ぜる。色合いや味、栄養価など100種の分類があるほか、季節に応じて混ぜる品種は異なる。
ベビーリーフのパッキング工程。仕様に合わせて複数品種を混ぜる。色合いや味、栄養価など100種の分類があるほか、季節に応じて混ぜる品種は異なる。
[画像のクリックで拡大表示]
果実堂の研究所では、各地の土壌を調査している。写真中央部に並ぶ長細い茶色の部分は、各地の土壌を収めたサンプルである。
果実堂の研究所では、各地の土壌を調査している。写真中央部に並ぶ長細い茶色の部分は、各地の土壌を収めたサンプルである。
[画像のクリックで拡大表示]
生産管理工程のデータベース例
生産管理工程のデータベース例
[画像のクリックで拡大表示]
果実堂 代表取締役 社長を務める井出剛氏
果実堂 代表取締役 社長を務める井出剛氏
[画像のクリックで拡大表示]

生産管理工程のデータ蓄積で、計画通りに栽培/出荷

 品質がそろった葉物野菜を栽培できる状況をつくり、その上で果実堂は各ハウスでの栽培や受発注の管理を実施している。同社の管理システムで用いるデータベースは、(1)生産管理工程(農場の栽培を管理)と、(2)販売管理(製造、受発注を管理)の大きく二つがある。データベースはFileMakerを使って構築した。データベースが出来上がったのは4年ほど前であり、機能を追加するなどして現在に至っている。以前はExcelシートを利用していたが、管理規模が大きくなってきたので現在の形に変更した。それぞれのデータベースの特徴を見ていこう。

 (1)の生産管理工程は、肥料を与える、刈り取りをするなどの作業日報を、一元管理するデータベースだ。作業員が持ち場でその日に行ったことを作業翌日に入力する。これを見ると、作業内容だけでなく、仕掛品の管理も可能だ。工程表の枠に入力できる項目は選択式になっており、自由記述は受け付けない。こうすることで、各作業項目の管理と確認を分かりやすくしている。この生産管理工程データベースは日本農林規格(JAS)にのっとったものである。なお、以前、生産管理は手書きの書面でないとJASの認定を受けることができなかったが、現在は電子化された管理も認められているという。

 生産管理工程のデータベースを利用し、果実堂は収穫の計画を立てている。冬季は生育が遅いので、収穫計画よりも1~2日ずれて進行しても許容しやすい。逆に夏季は生育が早いので、少しでも収穫がずれると出荷計画に支障を来たす。種をまいた時期によって収穫までの期間の長さや影響の度合いは異なるが、過去の実績データから「長雨が予測以上に続くなど突発的な状況がない限り、予測したカレンダー通りに進むようになっている」(同社 業務推進室 リーダーの上野史雄氏)と胸を張る。栽培回数が増えるごとに実績データは蓄積されていることから、予測の精度は現在も高まり続けている。「毎年夏は生育に苦戦しているが、それはデータの蓄積として今後に生かせる」(同氏)。

 種をまいた段階で、いつごろ、どれだけ収穫できるのかが分かるので、販売データと結び付けられるのが強みだ。さらに、生育条件を変えて生育を促進したり、逆に遅らせたりといったことも可能なので、受注状況により栽培スピードを前後にずらせるようになっているとする。こうした芸当も、実績データの蓄積があったからこそできる。

販売管理だけでなく、トレーサビリティーにも効果

 (2)の販売管理のデータベースでは、顧客ごとに番号を付けた作業コードを設けて管理している。作業コードで当たれば、顧客のどの店舗に何を納入し、どこから出荷し、運搬は誰が担当したのかが分かる。工場がいつ出荷すればよいのかも分かる。果実堂はもともと工業部品と同じ見方でベビーリーフを管理する考えであり、LSIなどと製造工程管理や製品管理と変わらない。

 販売管理だけでなく、製品のトレーサビリティーが実現する。万一、品質不良があった場合、ロットの内容(ベビーリーフを構成する品種内容)や農場、刈り取った日付が分かるなど、各生産工程の確認にさかのぼれる。どこのハウスで栽培され、いつ種がまかれ、生育途中でどんなことがあったのかを確認可能だ。

 果実堂によれば、以前、消費者から「ベビーリーフにプラスチック片が混入していた」とのクレームがあった。プラスチック片を分析したところ、それが魚粉であることが分かった。魚粉は肥料に使ったものだ。消費者の手元に渡った製品の番号から生産された農場までさかのぼり、飼料をまいた日まで特定できた。こうした経緯を詳細に調査して、問題が起こらないように生産現場にフィードバックするだけでなく、消費者にも調査内容を伝えるという。トラブルがあった消費者に対しても果実堂の管理体制を伝えることで、かえって企業の信頼性が高まる効果がありそうだ。

複数種を混ぜる製品だからこそ、データベースが必要に

 果実堂の取引先は現在、百数十社。2日後の入荷という注文もあれば、1週間ごとに注文が来るケースもある。こうした注目を販売管理データベースで一元管理している。だが、管理しているといっても販売量は一定なわけではなく、日々変動している。変動を許容できる、何らかのバッファが必要だ。販売管理のデータベースを活用し、バッファ管理も実行しているという。なお、ベビーリーフは複数種の葉物野菜の幼葉を組み合わせているので、混ぜる種類の量を変更することもバッファの役割を果たす。

 果実堂が出荷するベビーリーフには、“青物”、“赤物”という栄養価の違いによる製品の違いがある。栄養価の違いは明確にしなければならないが、その中の品種構成は可変。この可変であることをうまく使い、ロスが出ないように管理している。

 果実堂が生産管理と販売管理のデータベースをつくり上げた背景には、ベビーリーフ特有の悩みがあった。ベビーリーフは、複数種の葉物野菜の幼葉を混ぜ合わせるため、葉物野菜の品種によって寸法や生育状況が異なり、季節による影響度も違う。変動要因が多いので、細かく管理しなければベビーリーフを安定して量産できない状況にあったのだ。このような背景から、システム構築の必要に迫られた。