熊防メタル 代表取締役 社長の前田博明氏
熊防メタル 代表取締役 社長の前田博明氏
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 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 熊本編では今回、熊防メタル(熊本県熊本市)を取り上げる。同社が得意とする技術は、メッキ処理やアルマイト処理、電解研磨といった金属の表面処理である。これまで培ったノウハウを生かし、ビッカース硬さが高いアルマイト膜を得られる表面処理、静電気の発生を抑制するアルマイト処理や表面加工など、機能性の高い表面を得られる技術を開発しているのが同社の特徴だ。中でも、ビッカース硬さが600というアルマイト膜は一般的な硬質アルマイト膜に比べて同硬さが2倍近く、ステンレス鋼や鉄などを使ってきた部品をアルミニウム部品に置き換えられる可能性がある。

 現在、同社の業績のうち、半導体や液晶パネルの製造装置に使う部品(例えばステージなど)向けが7~8割を占める。他は自動車向けなどがあるが、少数派だ。だが、そもそもメッキやアルマイトなどの表面処理を必要とする用途は多い。つまり、表面処理は用途を選ばないので、同社技術の適用範囲は広いとみる。特徴ある表面処理技術を生かして、半導体や液晶パネルの製造装置向けの事業拡大も図りつつ、医療や環境エネルギー、航空宇宙といった新規分野の開拓にも乗り出したい考えである。

 こうした熊防メタルの活動の背景にあるのが、「下請けからの脱却」だ。同社が主力とする、半導体や液晶パネルの製造装置業界は投資の変動が激しい。同社は医療や環境エネルギーなど多様な分野に関わることで、業績の安定化を図る。加えて、新規用途であれば顧客層は地域的に広がりがあり、九州内に偏りがちな顧客層を全国レベルに拡大させることも可能だ。

 さらに、技術の付加価値を高め、「値段は高いけど、その機能がどうしても必要だから使わざるを得ない」という立場も構築できよう。昨今、海外調達や海外生産などが進んだことで、同社は海外の表面処理企業と競争関係になっており、コスト低減への要望が厳しさを増しているという。機能性を高めた表面処理技術を開発することで、コストダウン一辺倒ではなく、付加価値で勝負する状況を作り出すのに躍起だ。熊防メタルが培ってきた技術や今後の狙いを探り、中小企業が技術力を糧に脱皮を図る姿に迫った。

様々な相談が持ち込まれ、自社開発品の実現につながる

 熊防メタルは2001年、熊本防錆工業から分社化する形で設立。それ以降、半導体や液晶パネルなどの製造装置向け部品の表面処理の比重を高めてきた。これらの部品の処理にかかわる過程で、顧客からの要望に応える形で機能性を高められる表面処理を開発し続けてきた。

 顧客からの要望が寄せられる背景には、熊本という土地柄がある。熊防メタルによれば、例えば関東ではメッキ処理を得意とするメーカーやアルマイト処理が得意なメーカーが存在し、しかもメッキ処理では亜鉛(Zn)メッキが得意なところ、クロム(Cr)メッキが得意なところがあるなど、表面処理の内容によってある程度分業されているという。それに対し、熊本の表面処理メーカーは業域が広く、メッキ処理やアルマイト処理を1社で対応するところが目立つとする。

 その結果、持ち込まれる案件は多岐にわたり、様々な顧客層とのつながりができた。そして、顧客から「こんなことはできないか」という相談も持ち込まれることが多く、自社開発品の実現に結び付いたとする。

顧客の要望はなくならない、だから開発ネタが尽きない

 しかもこうした環境は、他社に対して開発に先んじることにもつながる。世界的に競争力のある顧客が抱える悩みや情報に触れる機会があり、課題解決のアドバイザーになる場合もあるとする。顧客がある新機能を製品に盛り込むことを考えたときに、その新機能の鍵を握る部品(表面処理を含む)を調達できないと、新機能は実現し得ない。そのため、鍵を握る協力会社にあらかじめ相談することになる。

 こうして先んじて開発してきた表面処理技術を持っていると、先端的な取り組みをする新たな企業や研究機関などから声が掛かるようになる。実際、熊防メタルはこのような形で開発テーマを新規顧客からもらい、開発を進める案件もあるという。さらに、自社で考えて開発を進める案件もあり、顧客側に独自のアイデアを提案している。「顧客の要望はなくならないので、表面処理のネタが尽きることはない」(熊防メタル 代表取締役 社長の前田博明氏)。

各種表面処理の例
各種表面処理の例
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