図1 セイコーエプソンのHMDでは、側頭部に配置した液晶パネルで表示した映像を、光学系を通じてユーザーの目に投射する。ハーフ・ミラーを採用することで、現実空間を目で見ながら、映像を視聴できる。現行製品では映画の視聴に重きを置くが、今後は業務用途などへの展開も検討している。(図:セイコーエプソンの資料を基に本誌が作成)
図1 セイコーエプソンのHMDでは、側頭部に配置した液晶パネルで表示した映像を、光学系を通じてユーザーの目に投射する。ハーフ・ミラーを採用することで、現実空間を目で見ながら、映像を視聴できる。現行製品では映画の視聴に重きを置くが、今後は業務用途などへの展開も検討している。(図:セイコーエプソンの資料を基に本誌が作成)
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 経営陣の肝いりで開発されたHMDがある。それが、セイコーエプソンが2011年11月に発売した、HMD「MOVERIO BT-100」である。両眼・大型・透過型で、周囲の様子を見ながら映像を視聴できる。ユーザーの20m先に、320型相当の大画面映像を疑似的に表示できるという。映像視聴用途に重きを置くものの、周囲を見ながら映像を視聴できるため、例えば新幹線や飛行機の移動中でも利用できる。

 HMDには、画素数が960×540の0.52型の透過型液晶パネルを、左右のフレーム部に配置する。液晶パネルで生成した映像を投射レンズで拡大した後、メガネのレンズ部分に配置した導光板に送る。導光板を通じて送られてきた映像をハーフ・ミラーで反射させ、ユーザーに大画面の映像として認識させることができる(図1)。映像表示部の光の透過率は約70%。映像をよりはっきりと見たい場合は、メガネ部全体を覆う「シェード」を取り付けて、透過率を下げることも可能だ。

 HMDの開発が決まったのは、2009年末のこと。これまでセイコーエプソンが培った、プロジェクター向け液晶パネルの製造や、光学系や光学部品の設計のノウハウを生かせると考え、HMD事業に参入した。だが、HMDの事業化は初めてとあって、開発は難航したという。検討後、現在の光学系に決めてから実質約1年間で実用化にこぎ着けた。開発期間が短かったこともあり、「今のMOVERIOの完成度にはまだ満足していない。今回の開発で培ったHMDの設計ノウハウを活用し、次期モデルは大きく進化させるつもりだ」(セイコーエプソン)と意気込む。次期モデルでは、小型・軽量化に注力する予定だという。