図1 キヤノンは、HMD内のカメラで撮影した現実の空間内の映像に、実物大の仮想物体を合わせて表示する「MRシステム」を開発した(a)。仮想物体の位置精度を高めるために、カメラとユーザーの瞳の光軸を一致させている(b)。(図:キヤノンの資料を基に本誌が作成)
図1 キヤノンは、HMD内のカメラで撮影した現実の空間内の映像に、実物大の仮想物体を合わせて表示する「MRシステム」を開発した(a)。仮想物体の位置精度を高めるために、カメラとユーザーの瞳の光軸を一致させている(b)。(図:キヤノンの資料を基に本誌が作成)
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図2 キヤノンは、MRシステムを使い、工程の簡略化や手間の軽減などを狙う。例えば、実寸大の仮想の自動車を表示し、モックアップなしでも外観デザインや操作性を検証できるようにした。(写真:キヤノン)
図2 キヤノンは、MRシステムを使い、工程の簡略化や手間の軽減などを狙う。例えば、実寸大の仮想の自動車を表示し、モックアップなしでも外観デザインや操作性を検証できるようにした。(写真:キヤノン)
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 HMDは作業支援の他、技術者の設計支援でも利用できる。例えばキヤノンは、製品の設計段階で、デザイン(意匠)や操作性を評価する用途に向けた複合現実感(MR:mixed reality)システム「MREAL」を開発した(図1)。同システムでは、HMD搭載のカメラで撮影した現実世界の映像と、3D CADデータのような3次元CGを実寸で重ねて表示可能だ。ユーザーが移動したり、頭を動かしたりして視点が変われば、その変化に応じてCGの見え方が変化する。これにより、設計したものが、あたかも目の前にあるかのような感覚をユーザーに与えられる。モックアップを使わずに設計時の検証が可能になるため、検証作業の工程の削減やモックアップを製造するコストの低減につながる。

 MREALを利用すれば、実寸大のCGの自動車を目の前に表示し、外観や運転席周囲の操作部などのデザインを評価できる(図2)。工場では、生産設備を配置する前に、作業効率を確かめたり、安全性を検証したりできる。建築用途では、駅のホームに設置する落下防止柵の「ホームドア」の設置場所の検討に利用可能だ。

 MRシステムは主に、3次元映像を表示できるビデオ透過型のHMDと、各種演算処理を担うパソコンで構成する。3次元映像を表示するために、HMDには左右の映像向けにそれぞれカメラと表示素子を搭載した。重さは640g程度である。

 実空間に専用のマーカーを設置し、このマーカーを基準にして、HMDのカメラで撮影した実空間上の映像にCG画像を重ねる仕組みである。ユーザーの姿勢はジャイロ・センサを用いて把握する。この他、用途に応じて、他のセンサも用いて、ユーザーの位置を特定する。例えば、自動車の設計検討の場合には、広い空間内を歩き回るため、光学式センサを利用している。

 実空間上に違和感なくCGを重ねられるように、HMDの光学系にも工夫を施している。具体的には、自由曲面プリズムを利用して、ビデオ・カメラで撮影した映像と、表示パネルで生成したCG映像との光軸を一致させた。自由曲面プリズムの採用は、小型化にも寄与した。

 MREALは、2012年7月からキヤノンITソリューションズが販売している。キヤノン自体も、社内の製造現場への導入を「実証試験中」(同社)だという。