図1 新日鉄住金ソリューションズは、HMDを用いた作業支援システムの開発に取り組んでいる。例えば、透過型HMDを利用し、点検箇所にCGの矢印を表示して、ユーザーの作業負担を軽減する(a)。この他、配線作業において、ケーブルの挿抜手順を表示することもできる(b)。(図:新日鉄住金ソリューションズの資料を基に本誌が作成)
図1 新日鉄住金ソリューションズは、HMDを用いた作業支援システムの開発に取り組んでいる。例えば、透過型HMDを利用し、点検箇所にCGの矢印を表示して、ユーザーの作業負担を軽減する(a)。この他、配線作業において、ケーブルの挿抜手順を表示することもできる(b)。(図:新日鉄住金ソリューションズの資料を基に本誌が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 組み立て作業や設備の設置作業などを行っている最中に、組み立て手順や設置手順をHMDに表示することで、作業効率を高めることができる。こうした実作業支援へのHMD適用に力を入れる企業が、新日鉄住金ソリューションズである(図1)。同社は、HMDを使った作業支援システムの開発に取り組んでいる。安全性の面から、HMDには、実空間と映像を同時に見ながら作業できる透過型の利用を想定する。セイコーエプソンの光学透過型製品などを利用する他、新日鉄住金ソリューションズ自らが、作業支援システムに適したHMDを米Vuzix社と共同開発している。

 作業支援で重要になるのは、手順書(マニュアル)を適切な場面やタイミングで出すこと。その際、ユーザーの位置特定が不可欠である。例えば工場の組み立て作業では、作業場付近にマーカーを配置し、そのマーカーからユーザーの位置を特定する。マーカーを設置できない場所では、カメラで撮影した映像中の物体や文字、絵柄などを認識し、ユーザーの位置を把握する。

 HMDにカメラ機能を搭載することで、検証ツールとしても利用できる。作業者が実際に見ている視点で作業の様子を記録する。ミスが発生した際の検証や、熟練者の技能伝承などでの利用を想定する。「1年間の作業を記録すると、およそ1Tバイトの容量を要する。現在3TバイトのHDDが1万円程度。この価格で3年分の作業履歴を記録できる」(同社)という。

 新日鉄住金ソリューションズは、作業支援だけでなく、避難誘導用途にもHMDを適用できるとみている。実際、同社はHMDを使った聴覚障害者向け誘導支援システムを試作し、静岡福祉大学などと実証実験を実施した。非常時、音声による避難案内だけだと、聴覚障害者には分からない。スマートフォンやタブレッット端末に避難案内を表示させる方法もあるが、画面を見ながらだと、周囲が見にくく、避難が難しくなる。透過型のHMDであれば、周囲の状況を確認しながら、HMDに表示された避難経路などを見て逃げられる。