オジックテクノロジーズが手掛けるMEMS技術は、膜厚200μm、アスペクト比2.5といった仕様を満たせるという。(図:オジックテクノロジーズ)
オジックテクノロジーズが手掛けるMEMS技術は、膜厚200μm、アスペクト比2.5といった仕様を満たせるという。(図:オジックテクノロジーズ)
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培った技術は、化粧品や食品添加物などに向けた物質抽出にも生きる

 これまでの知見やノウハウを生かし、オジックテクノロジーズは一風変わった新規事業にも取り組んでいる。それが、サクランの抽出である注)。サクランとはスイゼンジノリという、九州の一部に生息する淡水性のラン藻から抽出される多糖類。ヒアルロン酸の約5倍の保水力があるので化粧品に使えるほか、食品添加物や医薬品、レアメタル回収などに利用できるという。

注)サクランは北陸先端科学技術大学院大学の研究者が発見された。グリーンサイエンス・マテリアルから委託される形で、オジックテクノロジーズがサクランの抽出を行った。同社以外にも、サクランの抽出を手掛ける企業はある。

 オジックテクノロジーズは表面処理などで化学分野の知見が豊富なので、その技術を抽出に生かした。例えば、酸などの薬液を使い、サクランの純度を上げていくのに役立っているという。だが、同社は有機物を取り扱う知見が少ない。そこで、サクランを発見した北陸先端科学技術大学院大学と組んで進めた。抽出したサクランは、既に化粧品や食品に使われており、「ここ1年、引き合いが多い」(金森氏)。なお、食品にサクランを添加すると、触感が良くなるという。

 サクランは天然素材かつ生息域が限られるために、大量生産できないのがネックだ。それから、化粧品に使うとなると、ヒアルロン酸を使った商品と競合する。サクランならではの付加価値を高めるために、食品への効果だけでなく、熊本大学と健康への効果を研究中とする。食感と健康の2本立てとし、付加価値を高めるのが狙いだ。

外部連携で開発力を高める

 新規事業では一般に、開発リソースの確保が企業の悩みどころだ。規模の小さい中小企業ほど、その悩みは大きい。従業員数が120人弱のオジックテクノロジーズでは、約10人を開発にあてており、その半分が新規事業関連、残りの半分がメッキなどの従来事業関連の開発に当たっている。企業規模の大きなメーカーに比べると見劣りがしてしまうが、外部連携で開発力を補っている。

 「強い要素技術はある。だが中小企業は1社でできることには限りがある」(オジックテクノロジーズの金森氏)ので、中小企業が現事業分野と大きく離れる分野に挑むのでは成功する確率は低くなってしまう。いきなり“飛び地”に行くのは無理があるので、「どうしてもテリトリーの近いものになるだろう。自分たちの強みを生かし、足りないところは他と連携していく」(同氏)。

 前編で紹介したように、新規事業は県内や九州内といった従来の顧客層の枠を超え、広い地域から顧客を引き込むことを狙っている。それは日本にとどまらず、海外企業も自ずと想定顧客に入ってくるだろう。オジックテクノロジーズは現在、海外企業との直接の取引はない。だが、同社の技術が生かされた顧客の製品(例えば半導体製造装置)は海外で活躍しており、同社の技術は海外企業に間接的に受け入れられていることになる。そのため「海外との直取引は意識していく。我々の技術であれば、外に打って出ていけるはず」(同氏)とみる。

 ただし、海外に拠点を設ける考えはないとする。海外企業の案件を熊本に呼び込み、最終的に付加価値が日本に落ちるようにしたいと、金森氏は語る。