オジックテクノロジーズが手掛けるMEMS技術は、膜厚200μm、アスペクト比2.5といった仕様を満たせるという。(図:オジックテクノロジーズ)
オジックテクノロジーズが手掛けるMEMS技術は、膜厚200μm、アスペクト比2.5といった仕様を満たせるという。(図:オジックテクノロジーズ)
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 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 熊本編の第1弾として取り上げたオジックテクノロジーズ。前編は、新規事業に挑む意義や、主力事業向けに展開する技術の特徴を紹介した。後編は新規事業について、同社が手掛けるMEMSの特徴や開発体制などについて聞いた。

厚く金属を積める電鋳技術が生きる

 新規事業の一つであるMEMSでは、精密電鋳技術を使って金属構造物を作る。2012年に実用化したインクジェット・プリンター向けノズル周辺部品では、ピエゾ素子の上に微細なメッシュ構造を作製したという。同様の技術を使い、実用化第2弾に向けて現在5~6テーマを進めている。例えば、イオン・トラップやバイオ・センサなどを有望視する。

 MEMSはさまざまな企業が挑み、実用化している。多くの競合がいる中で、オジックテクノロジーズの利点は「厚い金属膜を成膜できること」(オジックテクノロジーズ 技術本部 統括部長の松田元秋氏)にあるとする。「電鋳で厚さ200μm以上の膜を作れる。他社は厚くても20μm~30μmだろう。しかも、我々は200μm厚でアスペクト比2.5以上の構造体を実現可能だ」(同氏)。例えば、インクジェット・ヘッドのインク・タンクを考えると、十分なインク容量を稼ぎ出せる。

 電鋳技術では、NiとCuの薄膜を複数積み重ねることも可能で、マイクロスプリングも得られるとする。例えば、Niを50μm、Cuを50μmで交互に積み重ねると、ヤング率を所望のものに合わせ込めるという。

 電鋳で厚い膜を得る際に鍵になるのが、「内部応力をどのように取り除くのか」(松田氏)である。Si基板上に金属膜を作製するなど、異種物質の上に厚く膜を積めば積むほど内部応力は大きくなってしまう。オジックテクノロジーズはプロセス条件を工夫し、所望の方向にメッキを析出させる技術を開発することで内部応力を低減した。

 例えば、Si基板上に設けた穴に、金属を埋め込むとする。通常の電鋳技術では、金属は上方向だけでなく横方向にも成長するので、金属膜は横方向に応力がかかる(横方向にはSiの壁があるので)。同社が開発したプロセス条件を使うと、上方向だけに金属膜が析出するという。

 有機薄膜については熊本の産官学連携プロジェクトである、くまもと有機薄膜技術高度化支援センターに加わる形で取り組んでいる。太陽電池や有機EL照明、有機ELディスプレイ、有機エレクトロニクス、バイオ・デバイスなどを開発しており、オジックテクノロジーズ 代表取締役社長の金森秀一氏は同センターの副センター長を務める。