中央が、オジックテクノロジーズ 代表取締役社長の金森秀一氏、左が技術本部 統括部長の松田元秋氏、右が総務部 部長の与田英雄氏
中央が、オジックテクノロジーズ 代表取締役社長の金森秀一氏、左が技術本部 統括部長の松田元秋氏、右が総務部 部長の与田英雄氏
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 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 熊本編の第1弾として取り上げる企業は、オジックテクノロジーズ(熊本県熊本市)である。同社は、成長の可能性が高い県内の中小企業を対象に熊本県が実施するリーディング企業育成支援事業の認定を受け、得意とする表面処理技術を生かした新規事業開拓などに挑んでいる。同社が新規事業に挑む意義や得意とする技術について聞いた。

新事業で顧客を全国に広げる

 1947年創業の同社が手掛けるのが、メッキやアルマイトなどの表面処理である。創業時は農業用機械に使う部品へのメッキ処理を手掛け、その後は半導体向けのリードフレームの生産、半導体製造装置に使う部品の表面処理、パワー半導体の放熱基板の表面処理など、熊本県内に誘致された大手メーカーが増えるごとに広がってきた。

 だが、自動車や半導体製造装置関連を中心に関わってきた下請け案件だけでは、オジックテクノロジーズ 代表取締役社長の金森秀一氏は限界を感じている。「産業構造が変わってきている。半導体なども競争環境が変わる。我々の既存の事業は続けていくが、生き残るためにどのような分野に進むべきかを常に考えている」(金森氏)。同氏は事業30年説を唱える。30年たてば、事業構造は変わり、関係企業の事業の柱に新たなものが必要になるということだ。オジックテクノロジーズにとって、自動車向けは事業開始から38年目、半導体製造装置向けは23年目、パワー半導体向けも19年目。30年説を考えると、次の柱が必要になる時期といえる。

 その結果として、同社はこれまで培ってきた技術を生かし、2010年から有機薄膜やMEMS、バイオなどの新事業に挑んでいる。リーディング企業育成支援事業の認定は、MEMS事業創出で受けたものだ。2012年には、インクジェット・プリンターのノズル周辺に使う部品に採用されたという。バイオはメッキ技術とかけ離れているが、化学処理の知識やノウハウが生かせる。

 新規事業は、従来と事業の質も異なるという。従来の事業は、顧客から品物を預かり、そこに処理を加えて戻すというもの。その際の加工賃を得るという収益モデルであった。それに対して、MEMSは部品として出荷する形だ。

 顧客層も変わる。これまでは地域密着型の下請けがほとんどだったため、オジックテクノロジーズの顧客は熊本県内や九州内にとどまってきた。半導体製造装置や自動車向け部品などは大きいので、輸送を考えると顧客は近場に限られる理由もあった。だが、MEMSやバイオなどは想定顧客が存在する領域は広い。しかも、高い技術力を求める傾向も強いという。

 こうした傾向を生かし、新事業では受注を全国的に広げる目論見だ。展示会にも出展している。「地場の中小メーカーが、大企業や他地域の企業にじかに売り込みに行ってもあまり効果はない。技術を探してもらう立場、それを生かせる場でのアピールにより、お客を引き寄せる」(オジックテクノロジーズ 技術本部 統括部長の松田元秋氏)。新事業を進めるのは「我々だけでは技術が足りない」(金森氏)ので、大学や産業技術総合研究所などと協力し、技術の蓄積を進める。