1チップ化を実現
(1)のLEDを利用した心拍や脈拍の測定は、前述の日本大学やトヨタ自動車などが採用している。図1に示したように、指などが触れる部分に、LEDによる発光部とフォトトランジスタなどによる受光部を配置。血液中に含まれるヘモグロビンが緑色など特定の波長の光を吸収しやすい特性を利用して、指などに照射したLEDの反射光から脈拍を検出する手法だ。比較的広く使われている手法であり、2013年6月には新日本無線が緑色LEDとフォトトランジスタを一つのパッケージに集積した汎用の脈拍センサの出荷を開始したほどである。
日本大学は、LEDを利用した脈拍測定において、同大学の尾股氏が開発した「位相シフト法」と呼ぶ技術を組み合わせていると説明する。具体的な仕組みについては明らかにしていないが、「位相シフト法を使うとS/Nが大幅に高まるため、極めて高い精度の脈拍波形を得られる。だからこそ血圧への変換が可能になった」(同氏)と強調する。
MEDICA 2012への出展後、この位相シフト法への問い合わせが世界中の企業などから相次いでいるようだ。尾股氏は最近、位相シフト法によるデータ処理を含めたコア部分を1チップ化することに成功したという。現在は1cm2角の大きさだが、「数mm角に小型化するメドも立っている。携帯機器にも実装できるようになるため、スマートフォンに搭載しているフラッシュ用のLEDを活用して、スマートフォンで脈拍や血圧を測定するといったことが可能になるかもしれない」(同氏)。2013年内にもパートナーと連携し、このチップの提供を始めたい考えだ。
新たなハードウエアは不要
(2)の画像処理を用いた心拍や脈拍の測定技術を開発しているのは、前述の富士通研究所だ。顔の動画の色成分を解析することで、脈拍を検出する技術である(図2)。
具体的には、(1)と同様にヘモグロビンが緑色の光を吸収しやすい特性に着目し、顔表面の緑色の輝度変化を捉えることで脈拍を検出する。まず、撮影した顔の動画から、フレームごとにRGBの色成分に分けてそれぞれの平均輝度を算出。ここから、各色に共通の雑音を除去した上で、緑色の輝度波形のみを抽出するといった具合だ。動画を撮影してから最短5秒での測定が可能である。
必要な動画の解像度はVGA程度で、20フレーム/秒ほどあればよい。このため、市販のWebカメラやスマートフォンに搭載するカメラで十分に対応できるという。「ハードウエアを新たに用意する必要はない。実用化の際は、画像処理ソフトウエアをアプリとしてパソコンやスマートフォンにインストールするだけで使えるイメージを想定している」(富士通研究所 ヒューマンセントリックコンピューティング研究所 ヒューマンソリューション研究部 主任研究員の猪又明大氏)。2013年度中に実用化することを目指している。
この他、米Microsoft社は2013年6月に米国ロサンゼルスで開催された「Electronic Entertainment Expo(E3)」において、同社の次世代の据え置き型ゲーム機「Xbox One」に同梱するジェスチャー入力コントローラ「Kinect」を用いた脈拍測定をデモした。これも、画像処理を用いた技術とみられる。