先行事例に続けとばかりに、新たなヘルスケア市場の創出を目指して開発が進む非接触・非侵襲の生体情報測定技術。もっとも、一概に生体情報といっても幅広い。ただし、現在の開発事例を見ていくと、その多くが主要な測定ターゲットにしている生体情報がある。それは心拍や脈拍だ注1)。「心拍からは、いろいろなことが分かるため、重要な生体情報の一つ」(九州大学 名誉教授 特任教授の間瀬淳氏)だからである。具体的には、ストレスの度合いや血圧などを心拍から推定することが可能だという。

 このうちストレスの度合いについては、心拍の間隔から推定できることが広く知られている。すなわち、心拍の間隔がばらついているとリラックス状態であり、心拍間隔のばらつきが小さいとストレスがたまっている状態とされる。これを応用すれば、前述した富士通研究所の脈拍測定技術をベースに、「オフィスでいつも通りパソコン作業をするだけで、ストレス状態をモニタリングできるようになる」といった、より意義のあるシステムに置き換えることもできるわけだ。

 一方、前述の日本大学やトヨタ自動車などが開発する技術はいずれも、脈拍を測定した上で、そのデータから血圧を算出している(図1)。「脈拍の伝播時間と複数のデータベースを組み合わせることで、血圧を推定できるようにした」(トヨタ自動車)、「我々は伝播時間から血圧を得るのではなく、一つの脈拍の波形から血圧を直接算出できるアルゴリズムを確立した」(日本大学 工学部 教授の尾股定夫氏)と、その手法は少し異なるとみられるが、脈拍のデータから血圧に変換している点は同様だ。

図1 脈拍から血圧を算出
非侵襲で取得した脈拍データから血圧を算出する技術を、日本大学やトヨタ自動車などのグループがそれぞれ開発している(a、b)。いずれも、LEDの光を利用して脈拍を取得している。
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 つまり、心拍や脈拍を非接触・非侵襲で測定できさえすれば、ストレス状態や血圧も非接触・非侵襲で分かる可能性があるというわけだ。心拍はこれまで、心電図(ECG、electrocardiogram)などから得る手法が一般的だった。これに対して非接触・非侵襲で心拍や脈拍を測定するために、現在どのような技術の開発が進んでいるのか。利用する技術の種類で分類すると、大きく五つに整理できる。すなわち、(1)LED、(2)画像処理、(3)加速度センサ、(4)電波、(5)光ファイバ、である。

注1)1分間の心臓の拍動が心拍数であり、1分間の手足の動脈の拍動が脈拍数である。健常な人は心拍数と脈拍数が一致する。