イチゴや梅を育てている田畑の上に太陽光パネルを設置し、農作物の育成と発電事業で太陽の光を分け合う――。こうした「ソーラーシェアリング」が、農業を活性化するとともに、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の新たな可能性を拓く手法として注目を集めている。このような中、農作物の育成に必要な日射量を確保しながら、農地の上に太陽光パネルを設置するためのシステムを開発した農業法人、ルネサンスエコファームが、山口県防府市にある同社の農地において売電を開始した(図1)。同システムの販売を担当する九電工が施工したもので、隣接地では、放し飼いの養鶏場の上でソーラーシェアリングする取り組みにも着手している。

図1●ルネサンスエコファームが売電を開始した山口県防府市にある同社の果樹園(撮影:日経BP)
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 ソーラーシェアリングは、農作物による収益だけで農業を継続していくことが困難になりがちな現在の農家のビジネス・モデルに、固定価格買取制度を活用した売電事業を加えることで、多重収益型のビジネス・モデルに変えるものである。農家にとって、農業へのモチベーションを向上する仕組みとなることが期待されている。

 ルネサンスエコファームが開発した、農地や山林を活用したソーラーシェアリング向けの太陽光発電システム「ソーラーシェアリングシステムKR」の施工、販売を担当する九電工 理事 営業本部 再生エネルギー部 部長 本松政敏氏によると、「一般的な農家の場合、売電による売り上げが、農作物の収穫によって得られる売り上げの7~8倍に達する見込み」とし、休眠農耕地における農業の再開や、食料自給率の向上などを促す可能性がある。農家にとって、敷居が高いと思われる運用時のトラブル対応については、約120ヵ所に張り巡らされた九電工の拠点からサポートする。

農作物と発電で太陽光を分け合う

 ソーラーシェアリングに使われる発電システムは、農作物の育成に必要な日射量を確保しながら、農地の上に太陽光パネルを設置する点がポイントになる。田畑に光を取り込むためのすき間を空けながら、太陽光パネルを並べる。このすき間の寸法は、育成する農作物の特性などによって調整する。

 日の出から日没までの太陽の移動に伴って、農作物に日が当たる時間、太陽光パネルの陰に入って、日が当らない時間が刻々と入れ替わっていく。このため、育成する農作物には、日射量がそれほど多くなくても育つ品種が向く。イチゴやレタス、柑橘類などが該当する。発電システムの設計次第では稲も対象となるという。つまり、育成する農作物にとって、必要以上な分の日射量を発電に使うというのが、基本的な発想である。

 ソーラーシェアリングを実際に運用できるようになったのは、農林水産省が2013年3月に出した通達による。農作物の収穫を前年比20%以上減らさないことなどを条件に、農地内に設置する、太陽光パネルの架台となる柱の部分だけを、農地から雑種地に変更できるという内容である。また、農作物の収穫の目安などを記した営農計画書を提出し、その計画に対して報告することも条件となっている。

 従来は、農地に太陽光パネルを設置するには、農地全体について、農地転用を申請する必要があった。農地転用の難易度は高く、申請が認められたとしても、その土地は農地から雑種地に代わるために、今度は農業の面で不都合が出てくる。結果的に実現が難しいと考えられてきた。