図1 オリンパスが試作したHMD「MEG4.0」は、長さが196mmで、本体の重さは30gほど(a)。映像表示部の厚さは2.6mmと薄い(b)。「瞳分割方式」と呼ぶ光学系を採用したことで実現した(c)。(図:(c)はオリンパスの資料を基に本誌が作成)
図1 オリンパスが試作したHMD「MEG4.0」は、長さが196mmで、本体の重さは30gほど(a)。映像表示部の厚さは2.6mmと薄い(b)。「瞳分割方式」と呼ぶ光学系を採用したことで実現した(c)。(図:(c)はオリンパスの資料を基に本誌が作成)
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 日常用途に向けた小型・軽量のHMDに関しては、米Google社の「Google Glass」や、米Vuzix社の「M100」など、海外企業の製品に注目が集まっている。だが、日本企業からも、日常用途に向けたHMDが登場している。その好例が、オリンパスが2012年7月に発表した片眼・光学透過型のHMD「MEG4.0」である(図1)。

 試作品ながら、重さはわずか30gほど、長さは196mmと、ペン並みの軽さと大きさを実現したことが最大の特徴である。単独で耳にかけて着用できる他、メガネに取り付けることも可能だ。

 小型・軽量化に寄与したのが、オリンパスが開発した、HMDの映像表示部の厚さを瞳孔の直径よりも薄くする「瞳分割方式」と呼ぶ光学技術である。表示部の先にある外界からの光が、表示部で覆っていない部分から瞳孔に入るため、表示部があっても前方の景色が見える。しかも、透過型のHMDで利用するハーフ・ミラーを利用しないため、小型・軽量化が可能になるのが特徴だ。

 ただし、映像の視野の広さを示す画角が対角11.5度と狭いため、瞳に対する映像表示部の位置合わせが難しいという。少しでもずれると、映像を見られない。そこで、HMD本体と表示部を接続する部分を自由自在に曲がる構造とし、表示部の位置を自由に変えられるようにした。実現手法について詳細を明かさないが、柔軟で、かつ位置の調整後にずれないような素材を用いたという。

 軽量化を図るため、2次電池の容量を小さくした。ただし、単に容量を少なくすると、動作時間が短くなる。そこで、主に二つの対策を施した。一つは、静止画表示を前提にしたこと。オリンパスは、HMDをスマートフォンとBluetoothで接続して利用することを前提にしている。簡単な情報をHMDで確認し、より詳細な情報をスマートフォンで見る、という利用方法を想定している。例えば、メールの着信情報だけをHMDに表示し、メールの詳細をスマートフォンで読む。

 加えて、動画の視聴もほとんど想定していないため、間欠動作を前提にしている。その結果、容量の小さな2次電池にもかかわらず、180秒のうち15秒間のみ表示する設定の場合、約8時間の動作時間を実現した。

 もう一つの工夫は、電池の交換を容易にしたこと。電池搭載部だけをHMD本体から外すことができる。同部はスティック型をしており、micro USB端子を通じて本体から挿抜できる。標準のUSB端子に変換するアダプタを電池搭載部に取り付けることで、パソコンなどで充電できる。

 オリンパスはHMDの実用化時期について、明らかにしていない。ただし、「実用化するために必要な技術的な要素はそろった」(同社)としている。今後は、キラー・アプリやHMDに適したUIの開発にも力を入れる考えだ。アプリ開発に関しては、基本的に外部の開発者と協力する。既にイベントなどでHMDの試作機を貸し出し、アプリ開発者にアピールしているという。