医療現場の意識も変わる

 (2)の医療現場においても、部材メーカーとの積極的な連携を求めている。これまでは「今、そこに存在する機器が完成形だと思っていた」(ある医師)という考えが一般的で、イノベーションの必要性をとなえる医療従事者はごく一部に限られていた。

 ところが、「ここ数年、iPhone/iPadなどのITツールによって医療が大きく変わり始めたことを目の当たりにし、新たな要素技術の導入に、多くの医療従事者のモチベーションが変わり始めている」(京都府立医科大学の髙松氏)。

 さらには、国内の部材メーカーが持つ優れた要素技術が医療機器に十分活用されていない現状への不満も、医療現場から出てきている。例えば、自治医科大学附属さいたま医療センターでは、ある補助人工心臓においてAC電源が確保できない移動(外出)時に用いる二次電池の性能が悪く、同心臓を装着した患者が現実には外出できない実態に苦慮していた。

 そこで、国内製の市販のNi水素蓄電池を用いて、標準装備されている海外製電池と入れ替えることで患者が外出可能な性能を自ら確保した(図4)。その有用性については、臨床確認して論文発表もしている。こうした医療現場の取り組みは、患者の利便性を高める狙いはもちろん、「国内の部材メーカーに、もっと積極的に医療機器に参加してきてほしい」(同センターの百瀬氏)という意図が込められているのだ。

図4 医療現場が自ら機器を改良
自治医科大学附属さいたま医療センターは、補助人工心臓の電池を自ら改良し、特性を向上させた上で患者に利用してもらっている(a~c)。(図:(c)は自治医科大学附属さいたま医療センターの資料を基に本誌が作成)
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連携に向けた環境整備も進む

 (3)の国・自治体としても、医療機器分野を新たな国内産業の柱とすべく、イノベーションを推進したいという思いが当然ある。具体的な施策も、ここにきて打ち出され始めた。

 例えば、経済産業省は2012年9月、「医工連携推進シンポジウム」を東京都内で開催した(図5)。医療現場が抱える課題と、部材メーカーが持つ技術を連携させることを狙ったイベントである。複数の医療現場から、自ら抱える課題とそれを解決するために求めている要素技術が次々と提示され、それを部材メーカーが聞くというスタイルで進められた。

図5 部材メーカーが医療現場のニーズを直接把握できる環境に
2012年9月に開催された「医工連携推進シンポジウム」の様子(a)。2013年1月下旬に本格稼働したWebサイト「医療機器アイデアボックス」の画面(b)。いずれも、部材メーカーが医療現場のニーズを直接把握することを狙ったものである。
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 大阪医科大学 看護学部 看護学科講師の松尾淳子氏は、このイベントにおいて、看護師が使える超音波診断装置へのニーズを提示し、実現に向けてセンサや回路設計、検出データの画像化などの要素技術を求めていると訴えた(詳細は第2部)。その結果、「これまでまったく接点がなかった部材メーカーから、数多くのコンタクトがあった。付き合いがあった医療機器メーカーには『技術的に難しい』と言われていたけれど、コンタクトしてきたメーカーの話を聞いていると実現できるような気がしてきた。今回発表したテーマに限らず、『こんなのが欲しい』と思うことはたくさんあったが、今まではそこで止まっていた。このような場ができたことは、実にありがたい」(松尾氏)と語る。