最近になって進み始めた部材メーカーと医療現場の密な連携。これは、今後さらに加速しそうだ。背景には、(1)部材メーカー、(2)医療現場、(3)国・自治体、の3者の思いが合致し始めたことがある(図1)。

図1 なぜ今、新たなフェーズに入ったのか
部材メーカーと医療現場の意識の変化に加え、両者を連携させる施策や仕組みの構築が進み始めたことで、新たなスキームの医療機器開発が加速しそうだ。
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 まず(1)の部材メーカーとしては、デジタル家電機器など、民生機器をはじめとする既存事業が停滞を余儀なくされる中で、医療機器分野を新たな事業の柱にしたいという思いがある。そのためには、これまでのように既存の医療機器メーカーを介した受け身の姿勢ではなく、自らが積極的に医療現場との連携に関与していくことが必要だと感じ始めている。

図2 医療現場との連携を進めるローム
ロームが開発するCIGS系イメージ・センサで、手首を撮影した様子(画像処理を施してある)。血管が鮮明に見える。
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 例えば、ロームは「今後の医療機器においては、センシング技術が肝になる。同技術を有する我々のような企業が主役になって開発を進めていくことが不可欠だ」(同社 常務取締役研究開発本部長の高須秀視氏)とみる。同社は、研究開発を進めているCIGS(Cu-In-Ga-Se)系イメージ・センサの医療機器への応用を模索している。CIGS系イメージ・センサは、従来のSi系イメージ・センサでは対応できなかった1000nmを超える近赤外の波長領域のセンシングが可能である(図2)。生体への透過性が高い近赤外光領域をセンシングできるという特長を、医療に生かそうというわけだ。

 そこでロームは現在、医療現場と直接連携し、脳の血流をセンシングしてストレスの分析などに使えないかという検討を進めている。「我々は、このセンシング技術をどう改良すべきか、改良すれば本当に価値があるのかなどを知りたい。それは、我々が自ら医療現場と連携していかなければ分からない」(同社の高須氏)。

 一方デンソーは、自動車向けに開発してきた各種のセンサ技術を医療機器分野に展開していくことを狙う。既に、利用者を拘束することなく睡眠時無呼吸症候群の検査を実現する装置に向けたセンサ技術を開発済みだ(図3)。加えて、脈波形や心電計へセンサ技術を応用する検討も始めた。「自動車業界には『現地現物主義』という言葉があり、実際の現場を知ることの重要性をたたき込まれている。医療機器に関しても同様に、医療現場と直接突っ込んだ会話ができるように、我々自身が医療の知識を蓄えている」(同社 新事業推進室 事業企画担当次長の徳島一雄氏)と語る。例えば、同事業に関わる社員は、ある医科大学が実施する社会人向けのカリキュラムに参加したり、ある学会が提供する医療機器関連の資格を取得したりしているという。

図3 自動車向けに培ったセンサ技術を生かすデンソー
利用者を拘束することなく検査できる睡眠時無呼吸検査装置「スリープレコーダSD-101」(a)。デンソーが自動車向けに培ってきたセンサ技術を活用している(b)。(図:(b)はデンソーの資料を基に本誌が作成)
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