「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 熊本編を始めるにあたり、熊本県庁にて産業振興策の立案や実行に携わっている商工観光労働部 新産業振興局 局長の高口義幸氏を訪ねた。前編は、産官学連携について聞いた。後編は、ニッチ・トップになる可能性を秘めた中小企業を支援するリーディング企業育成支援事業や、中小企業が連携して案件を受注する事業などを聞いた。

どのような支援を実施しているのか。

高口氏 行政は一般的に、特定企業を積極支援することはしない。熊本は、成長の可能性が高い県内の中小企業を認定し、継続的に3~4年バックアップしている。1社ごとにサポート役をつけ、県の担当者は一人当たり3~4社を受け持つようにしている。さらに、専門家チームを設け、品質管理など中小企業に無料でコンサルティングする。

 今のところ、リーディング企業は約50社を選定している。こうしたバックアップ体制は、2010年春くらいにつくった。リーディング企業に認定した中小企業はもともと売上高が数億円規模であり、そこを付加価値額(営業利益と人件費、減価償却費の合算値)で10億円を達成できるように支援する。付加価値額10億円を達成し、無事「卒業」した企業は既に3社ある。

 こうした中小企業の支援策の策定では、熊本県の産業政策顧問として加藤肇氏(元・アイシン九州 社長)、古賀光雄氏(古賀マネジメント総研 代表取締役)、数佐明男氏(元・ホンダソルテック 社長)、岩津春生氏(東京エレクトロン九州 シニアフェロー)、今村徹(元・ルネサスセミコンダクタ九州・山口 社長)、産業技術顧問として柏木正弘氏(元・東芝 主席技官)に協力いただいている。

企業連携の取り組みについて聞きたい。

高口氏 複数の中小企業が連携して共同受注する「MIKI-500」を発足させた。2013年5月に成立し、産業支援センターが中心になって進める。異なる技術に強みのある中小企業をフルセットで、自動車関連メーカーに売り込む。他県でも中小企業を売り込む商談会をしているが、それとは形が違う。

 熊本県内には、一通りの製造技術がある。特定の部品製造を請け負うのではなく、単品を複数組み合わせたモジュール発注を受けられるように考えたのがMIKI-500だ。自動車では最近、モジュール発注が増えたので、それに対応できる。例えば、ある自動車メーカーのモジュール発注に対し、そのモジュール構成に必要な部品などを製造できる熊本県内の個々の中小企業が複数まとまって、モジュールを受注するという形である。

 九州は中部などと違い、自動車ではトヨタ系や日産系、ホンダ系といった下請けピラミッドが作り上げられていない。中小企業1社で、トヨタ向け、日産向け、ホンダ向けを受注・生産するケースは多々ある。多くの企業と付き合える素地がある。

今後、熊本県で広げたい産業について聞きたい。

高口氏 現段階で、1980年代に描いたテクノポリス計画の将来像がほぼ実現できた。今後、熊本県としては、セミコンダクタ関連、モビリティ関連、フード&ライフ関連、クリーン関連、社会システム関連を重点分野に据えて発展させていきたい。このうち、社会システム関連以外はある程度、産業集積できている。既に産業集積できている分野をITで発展させるとともに、社会システム関連につなげていく。

 社会システム関連分野は、ITを使ったシステムづくりとなる。これは海外に売っていくことを考えている。まずは技術を融合させて、実証実験によって技術をさらに蓄積する。実証実験は単一企業ではできない。行政が手伝う形で進める。

 社会システム関連分野の一例が、スマートグリッドである。熊本県では大手電機メーカーと地場のIT企業が組んで、スマートグリッドの実証実験を進めている。それが2013年8月7日に開設した「くまもと県民節電所」だ注)くまもと県民節電所のホームページ)。スマートメーターを使い、省エネ化を進めるというもの。県民を対象に2万人を登録してもらうことを目指している。社会システム関連分野ではこの他、植物工場などがある。

注)くまもと県民節電所は、「家庭・事業所による節電の積み上げは、新たな発電所建設と同じ効果がある」という発想から、Webサイトに節電量を登録してもらい、その積み上げが「くまもと県民節電所」の「発電量」としてひと目で分かるようにしたもの。熊本県では2012年から実証実験できる布石を打っており、スマートメーターを入れて、「エネファーム」を入れると、熊本県から補助金をもらえるようにしていた。事業者や県民を対象にしており、300から400件の申し込みがあった。それらをくまもと県民節電所に登録してもらえるようにしている。

 社会システム関連では、アライアンスが必要だ。産官学連携は、テクノロジのアライアンスだったが、社会システム関連ではこれをステップアップさせてビジネスのアライアンスとなる。

 スマートグリッドであれ、植物工場であれ、事業化に踏み出すには大きな投資が必要だ。だが、アライアンスを結んでおけば中小企業も踏み出せる。中小企業は小回りが利くので、社会インフラづくりには有利に働くとみている。