熊本県 商工観光労働部 新産業振興局 局長の高口義幸氏
熊本県 商工観光労働部 新産業振興局 局長の高口義幸氏
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 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画では徳島県に続き、熊本県を訪問した。肥沃な土地が広がるとされる熊本は、もともとは農業県であった。産業振興を図るために、高度経済成長期以降は半導体をはじめとするエレクトロニクス・メーカーなど大手企業の工場を誘致し、工場へ納入する部品などを手掛ける中小企業を育て、熊本県内の産業構造を強化してきた。食品を含めた熊本県の生産額では、半導体関連(製造装置を含む)がトップで、次いで自動車関連、3番目に食料品が続く。半導体関連では、熊本県全体の工業出荷額の30~40%を占めるという。

 熊本県の製造品出荷額は約2兆5466億円(2012年、経済産業省の調べ)と、47都道府県中で30番目である。昨今は全体的に厳しい状況が続いているという。背景にあるのは、工場を誘致した企業の業績が芳しくないことや、海外への生産移転などによる産業構造の変化だ。大手企業の工場との結び付きが強かった中小企業は、新たな納入先を探す、得意とする技術を使って新分野に打って出るといった変革が不可避になってきた。この変革に向け、熊本県はさまざまな策を講じている。産学官連携のプロジェクトも盛んという。本企画の熊本編ではまず、熊本県庁にて産業振興策の立案や実行に携わっている商工観光労働部 新産業振興局 局長の高口義幸氏に、熊本県における中小企業の振興策とその特徴を聞いた。

熊本県における産業支援政策について聞きたい。産官学連携も盛んと聞く

高口氏 熊本県はもともと農業県である。熊本県としては、そこに工業を誘致するために活動してきた。工場を熊本県内に設置し、そこに下請けとして入る企業を育てるという狙いもあった。実際に中小企業が増え、着実に育ってきた。だが、それだけでよいのかと考えた。そこで昭和58年(1983年)にテクノポリス計画を立てた。産官学連携は、同計画が契機となった。

 テクノポリス計画は、Automation、Biotechnology、Computer、Data Processingを重点戦略分野に定め、素地のないところに新しいものを作り出すというものだ。こうしたことは、企業だけ、官庁だけでは実現できない。だから、産官学連携を進めた。単なる研究会に終わらすのではなく、具体的なプロジェクトとして遂行してきた。そこに参加した企業は事業展開に生かし、実際に実績を上げてきている。

 例えば、八代市にある櫻井精技。デバイス製造装置や検査装置を手掛ける同社は、熊本大学工学部が中心となった「くまもと技術革新 ・融合研究会(RIST)」で調査し、国が認定する共同研究に進め、そこで成果を出した。20年前は5億円だった売上高は、今や150億から160億円へ成長した。熊本県の産業技術センターや大学、産業技術総合研究所との共同研究により技術シーズを蓄積し、それを生かしてきた。生産設備を手掛ける平田機工も好例だ。大手自動車メーカーの生産ラインに生産設備が導入されている。そこで使われる技術は、国のプロジェクトで出した成果を生かしていると聞く。こうした活動を、30年間やってきた実績が熊本県にはある。

 産官学連携でよく協力いただける熊本大学の先生方は、実用化に前向きなのも心強い。産官学連携では単なる研究に終わらせず、実用化に結び付ける考えが強い。しかも、大企業や中小企業など、分け隔てなく手を貸していただける。