ゲリラ雷雨の通知サービス「スマートアラーム(ゲリラ雷雨モード)」のアプリ画面
スマホ用のアプリやパソコン用のWebサイトでは、32kmの範囲に分けてゲリラ雷雨発生の危険性をリアルタイムに公開している
スマホ用のアプリやパソコン用のWebサイトでは、32kmの範囲に分けてゲリラ雷雨発生の危険性をリアルタイムに公開している

 この数年、豪雨による被害が大きな社会問題になっている。特に関心を集めているのは、黒い雷雲を伴い、予報もなく突如として降り始める局所的な集中豪雨だ。いわゆる「ゲリラ雷雨」である。

 確率高く発生を予測できれば、豪雨到来に身構え、事前の対策で被害軽減につなげられる。だが、予測は技術的にかなり難しい。ゲリラ雷雨は、極めて局所的にピンポイントで生じる気象現象だ。これに対応するには、既存の気象観測網を格段に密でリアルタイム性の高いものにする必要がある。

 このゲリラ雷雨の発生を9割以上の確率で事前に捕捉し、危険が迫る地域の利用者に遅くても発生30分前までに通知することを目指すWebサービスがある。気象情報サービス最大手のウェザーニューズ(WNI)が提供する「スマートアラーム(ゲリラ雷雨モード)」だ。

 2012年の実績では、同年8~9月に日本で約2800回発生したゲリラ雷雨の91.1%を事前に捕捉した。平均で発生する56分前に警告メールを流すことに成功している。高確率での捕捉を可能にしたのは、WNIが展開する利用者参加型の気象予報サービスである。インターネットのWebサービスで集めた一般利用者による投稿を積極的に活用する、いわば「Web集合知」による気象予報技術を実現している。

 これを実現する基盤は、2013年6月に累計1000万ダウンロードを超えたWNIのスマホ用アプリ「ウェザーニュースタッチ」である。利用者は、このアプリで周辺の雲の様子や体感した気象の実況データをコメント付きの写真などの形で投稿する。この情報と気象観測機器による観測データを組み合わせ、同社の気象予報の専門家が解析する仕組みだ。

 日常的な実況データのレポーターとして登録する会員は、約500万人に上るという。利用者による気象観測をWNIは「感測」と呼ぶ。同社は、この情報をゲリラ雷雨だけではなく、台風や通常の気象予報にも生かしている。

 例えば、気象庁の観測施設「アメダス」は、全国で約1300カ所にすぎない。これにWNIの利用者がリアルタイムに報告する情報を加えることで、気象情報を得られる地点と、その情報量は一気に桁が上がる。専用機器による観測に比べて定量的な精密さでは劣るものの、現地の写真や体感情報は気象予報の専門家から見ると宝の山なのだという。

 専用機器による精密な「観測データ」と、利用者による大量の「感測データ」の組み合わせによって、気象解析の地域的な密度を高め、短期予報の精度を向上させる。これが同社の気象解析技術の独自性である。

 ゲリラ雷雨の予測では、10万人規模の有志会員による「ゲリラ雷雨防衛隊」と呼ぶ専門チームを組織している。これに加え、ゲリラ雷雨観測のためにWNIが独自開発し、全国80カ所に設置した小型気象レーダー「WITHレーダー」や、全国3000カ所に設置した観測システム「ソラテナ」の観測データも用いる。WITHレーダーは、半径50kmの範囲で対流圏下層(上空2km以下)の大気現象を6秒ごとに観測する機器である。雨雲が移動する速度や方向、予想される雨の強さを調べられる。

 これらの専用機器による観測データと利用者からの報告を基にゲリラ雷雨が発生する可能性がある地域を絞り込み、対象地域の隊員に監視体制の強化を依頼する。隊員が報告する雲の有無や色、距離感などを基に重点地域を定め、機器による観測内容も変えていく。この全体システムの運営と気象予報技術が、ゲリラ雷雨を高精度に事前予測する成果に表れている。

 インターネットを介して、「感測者」である一般の利用者と、離れた場所にいる気象予報の専門家が協力し合う。スマホ時代、ソーシャル・メディア時代の新しい気象予報技術の姿だろう。WNIは、これを災害による被害を減らす「減災」につなげることを目指している。同社は、2013年秋以降に利用者参加型の気象予報技術を世界展開する計画だ。日本の工場における「改善」活動が「KAIZEN」になったように、「感測」が「KANSOKU」として世界の言葉になる日も近いかもしれない。