3Dプリンタで造形する様子。断面形状を下から順番に積み重ねていく。
3Dプリンタで造形する様子。断面形状を下から順番に積み重ねていく。
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フルカラーの立体モデル。紙に通常のプリンタで印刷してから積層することで表面が着色した状態の立体モデルを造形できる。
フルカラーの立体モデル。紙に通常のプリンタで印刷してから積層することで表面が着色した状態の立体モデルを造形できる。
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 家電量販店などでも販売されるようになり、一般社会への認知度が一気に高まった3Dプリンタ。材料を削ったり、型に流し込んで成形したりといった従来の方法と異なって、断面形状を積み重ねていくことで実物(立体モデル)を作り上げる3Dプリンティング、または積層造形(AM:Additive Manufacturing)と呼ばれる技術を採用する。

 この技術の最大の特徴は、従来の加工・成形方法と比較して容易かつ短時間で立体モデルを手に入れられることだ。そのメリットは大きく2つある。1つは、3Dデータさえあれば誰でもものづくりに挑戦することが可能になったこと。従来の加工・成形方法では実現できなかったような複雑な構造を一体造形できる点も大きなメリットの1つだ。ものづくりの担い手が大きく広がり、既存製造業にとっても競争力強化のカギとなる可能性を秘めるのだ。

 第1のメリットに関しては、特に10万円前後の低価格機が登場したことで個人や小規模事業者などによるものづくりが加速している。「Makers(メーカーズ)」という言葉に代表されるムーブメントの背景には、この低価格3Dプリンタの登場が不可欠だった。

 大量生産へ適用するのは難しいものの、3Dプリンタは多品種少量生産やカスタマイズ品の生産には適しており、在庫を持たないオンデマンド生産の実現手段としても注目されている。実際、Webサイト上に商品写真を掲載して注文を受け付け、受注してから3Dプリンタで造形して発送するというマーケットプレイスが海外だけでなく日本でも次々と登場している。

 第2のメリットは、個人のような従来はものづくりに携わってこなかった人にとっても当然、「ものを作りやすい」という効果をもたらすが、既存の製造業にとっても大きな効果を得られる。例えば、航空・宇宙の分野では3Dプリンタによって金属部品を造形することで、従来は実現できなかったような軽量な部品を造ろうという取り組みが既に始まっている。金属部品の鋳造に使われる砂型も、3Dプリンタの適用によって大きな効果が見込まれる用途だ。

 実は3Dプリンタといっても、その造形方法にはさまざまな種類がある。例えば低価格3Dプリンタのほとんどは、ヒータを内蔵した可動ヘッドから樹脂を溶かしながら吐出することで材料を積み上げていく方法を採用する。このほかにも、インクジェットヘッドから光を当てると固まる性質を持つ樹脂を吐出するタイプや、粉末材料に対してバインダ(接着剤)を吹き付けて固めるタイプ、紙などのシートを切断して積層していくタイプなどがある。

 機種によっては、立体モデルの表面を着色した状態で造形できる装置もある。形状作製と塗装を一括して行ってくれるような手法は、従来の成形・加工では全く存在しなかった。この点も、3Dプリンタの大きな特徴の1つと言える。

 3Dプリンタの価格は数万円から1億円以上と幅広い。前述のようにさまざまな造形方法があり、使用できる材料や実現できる精度も異なる。もちろん、あらゆるものを作れるわけではないが、装置や材料の開発は日々進んでおり、課題は1つずつ解決されていくだろう。

 いわゆる工業製品だけでなく、臓器サンプルの作製など医療分野での3Dプリンタ活用も広がっている。既に、生体細胞を使った臓器の造形や食品を材料とする3Dプリンタの研究も進んでいる。3Dプリンティング技術によって、現時点では思いもつかないような“ものづくり”が実現する可能性は高い。