「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 徳島編の第3弾で取り上げた山菱電機。前編は、エネルギー関連装置の事業に注力する意図などを紹介した。後編は、同社主力工場である石井工場内の様子を写真とともに見ていく。

徳島大学でインバータ制御の手ほどきを受けた

 石井工場で最初に案内された建屋は、かつてハイブリッド車の試験装置や電車に搭載する空調機を製造していたラインである。取材時は筐体内に組み込むモジュールを組み立てていた。

筐体内に組み込むモジュールを組み立て
筐体内に組み込むモジュールを組み立て

 同じ建屋にはハイブリッド車の生産ラインに設置する検査装置をメンテナンスする場所があった。写真撮影はできなかったが、メンテナンス中の機器が複数個並んでおり、校正や部品の取り替えといった作業待ちの状況だった。

 続いて案内されたのが、筐体やフレームなどを製造する板金加工の建屋である。板金加工は、基本的には自社内で行っているという。

板金加工の建屋内1
板金加工の建屋内1
板金加工の建屋内2
板金加工の建屋内2

 いよいよ、各種装置の組み立てを行っている建屋に入った。詳細は明らかにされなかったが、大型ビルディングや工場の空調制御に用いる装置、例えばインバータ装置や周波数変換器などを組み立て中であった。「昨今、ビルディングもガラリと変わった。エネルギー効率の高い空調が求められている。そこに向け、我々はインバータ装置や周波数変換装置などを手掛け、納入している」(山菱電機 代表取締役の蓮池哲夫氏)。なお、大型ビルディングの空調制御装置は、1台の製造に3カ月程度を要するという。

組み立ての建屋内1
組み立ての建屋内1
組み立ての建屋内2
組み立ての建屋内2

 山菱電機はインバータ装置を数多く手掛けている。同社の蓮池氏によれば、徳島大学で三相誘導モータに関わる研究者からインバータ制御の手ほどきを受けたことで、インバータ装置の製品化に踏み出せたという。「国内でインバータ装置を製造するところは、おおよそモータも手掛ける。モータを手掛けず、インバータ装置を製造している当社は珍しい部類に入る」(蓮池氏)。

 同社は今、新開発品の製品化の準備を進めている。開発を進めるのが、PAM制御とPWM制御を1台で可能にしたインバータ装置だ。

 写真撮影は許可されなかったが、太陽電池用パワー・コンディショナも組み立て中だった。大手メーカーから受注した装置であり、仕様が厳しいハイスペック品とする。同じく、写真撮影が許可されなかった製品に、非接触給電装置の電源もあった。

 NDAを結んでいる案件は、納入先の企業が山菱電機の名前を明かさない限り、同社の名前が出てくることはない。だが、業界内で噂が出回ることはある。かつて、ある搬送システムに使う非接触給電装置の電源を開発した話をどこからか聞きつけた企業が、山菱電機に乗り込んできて、装置の提供を懇願されたこともあったという。そのときは「知らぬ存ぜぬで押し通した」と蓮池氏は振り返る。

 組み立てを行う建屋を見通すと、コスト低減や改善の意識を高める工夫が随所に見られる。例えば、組み立てに用いるケーブルやネジ、ワッシャーなどの置き場には単価が書かれており、部品を無駄にしないようにコスト意識を高めている。

ネジ、ワッシャーの単価が分かる
ネジ、ワッシャーの単価が分かる
ケーブルの単価が分かる
ケーブルの単価が分かる

 さらに、壁には改善提案や、提案件数の過去からの推移が貼り出されている。蓮池氏によれば、2007年から改善提案を募るようになった。提案内容を貼り出すほか、週単位で棒グラフにまとめている。

提案件数の推移を貼り出す
提案件数の推移を貼り出す
提案内容も一目で分かる
提案内容も一目で分かる

 最初の週は3件だけだったが、2009年に130件を超え、以後は同水準で推移している。「1円でも、1秒でも、1歩でも構わないから、改善につながるアイデアを募る」(同氏)という提案のすべてに同氏自ら必ず目を通し、コメントを付けるほか、電源やインバータ、機械など細かく分類して優秀な改善提案を表彰する。「社員一人ひとりの考えが分かる。新たな発見もある」(同氏)。こうしたことで、同社が一つの有機的な組織として動いている姿がうかがえる。