山菱電機の石井工場(写真:山菱電機のホームページより)
山菱電機の石井工場(写真:山菱電機のホームページより)
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 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 徳島編の第3弾で取り上げる企業は、山菱電機(徳島県徳島市)である。山菱電機が製造・販売する製品は、周波数変換器や変圧器、充放電装置、インバータ装置など、いわゆるパワー・エレクトロニクスと呼ばれる装置だ。昨今は太陽光発電や、ハイブリッド車の電池や電源回路の試験電源などで同社には多くの引き合いがあるという。

 社員数は200人に満たない規模ではあるものの、大手電機メーカーと機密保持契約(NDA)を結んだ戦略的な製品の電源などを手掛けることが多く、一目置かれる存在のようだ。だが、そのような“特別感”を、同社のホームページなど公開情報からはうかがい知ることが難しい。ホームページにある製品情報には電源関連装置などの汎用的な言葉が並んでおり、他社でも手に入るような製品に見える。そこで、山菱電機 代表取締役の蓮池哲夫氏に会い、同社の特徴に迫った。

約7割はNDA品

 取材で赴いたのは、山菱電機の石井工場(徳島県名西郡石井町)。同社の主力工場である。徳島駅から西へ列車で30分程度の水田が広がる地に、パワー・エレクトロニクス装置を製造する石井工場はある。同社の蓮池氏が「会社紹介にはあまりお金を掛けていない。だが、工場を見たら、プロは違いが分かる」と胸を張る拠点だ。蓮池氏によれば、同社製品の約7割は、NDAを締結した特殊仕様品という。いずれも特徴ある製品だが、特殊であるが故に写真を公開できず、同社ホームページにも掲載できない。その結果、対応できる製品の名前のみがずらりと並ぶ形になった。

 石井工場で生産する製品は、パワー・エレクトロニクスの専門家でないと、パッと見ただけで違いを見いだすのは難しい。生産する製品の用途の特異性(依頼主の戦略製品などに使われるため)や、形状や仕様が特殊であること、製造方法(安全性に配慮したケーブルやコネクタの配置など)を聞いて、初めて“特殊だ”と気付く。パワー・エレクトロニクスのプロが一目見たら違いが分かる場合があるので、特に機密にしたい製品は工場内の別室で組み立てられている。例えば、特殊な形状の製品は、こうした別室にある。

リーマン・ショックでも、エネルギー関連は強かった

 パワー・エレクトロニクス装置と一言でいっても、その適用範囲は幅広い。山菱電機は、そうした中でもエネルギー関連装置の事業に注力している。環境を良くしたいから省エネルギーを進めているとはいうよりは、むしろコストを削減したいから省エネルギーを進めているので、省エネルギーにつながる需要はしぼむことはないとみる。

 1939年創業で間もなく創立75年を迎える山菱電機が、エネルギー関連装置や省エネルギー化を進めた装置に一層注力する判断を下したのは最近になってからである。2008年秋の「リーマン・ショック」が契機になった。

 リーマン・ショック後、どこのメーカーの経営環境もみるみるうちに悪化していった。山菱電機と取引のある世界的な大手機械メーカーも、前年の大幅黒字から赤字に転落した。だが、同メーカーから請け負っていた案件はキャンセルとはならず、むしろ強化の方向に向かっていった。その案件が、エネルギー消費を劇的に抑える戦略製品であったのだ。「エネルギー関連は強い。だから当社は、エネルギー関連に力を入れるようにした」(山菱電機の蓮池氏)。

 山菱電機はこれを契機と見て、取引できるであろう大手企業のリストを2008年10月1日付けで作り上げ、エネルギー関連の研究開発や検査装置、施設(効率のよいビル空調や産業機械の電源など)などに向けて大手企業に技術を提案する形に変えた。「大手企業が必要とする情報を提供できることは強い。Give and Takeができるからだ。先にGiveがなければ、(リーマン・ショック後の厳しい市況の中で)取引にはつながらない。Takeが先ではダメだ」(山菱電機の蓮池氏)。こうした姿勢が功を奏し、大手企業の先行的な製品により多く関われるようになった。

 営業体制も見直した。従来は商社に取引先の開拓を任せていたが、前出の想定顧客リストと山菱電機を結び付けられる商社を選び出し、効率的に技術を売り込める形にしたという。こうした経営資源の注力と営業体制の見直しは、その後プラスに働いている。

 同社の取引先は、基本的には国内の大手企業であり、直接海外企業と取引することはないという。だが、取引先に納入する装置は取引先の戦略製品になるので、海外に出荷されることが多い。間接的ではあるが、山菱電機の製品は海外で活躍するケースは増えている。

 後編では、山菱電機の石井工場内の様子を紹介する。