「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 徳島編の第2弾として取り上げた阿波製紙。前編は、同社が新規事業として取り組む背景や、新規事業の一つである炭素複合シートの狙いや特徴などを紹介した。後編は、炭素複合シート事業の課題や、もう一つの新規事業である廃水処理装置の可能性について同社に聞いた。

売れるには時間を要する、想定市場も攻めにくい

 放熱基板に使った場合、アルミニウム基板を使う場合に比べて重さを約1/3に減らせるという、軽さが魅力の炭素複合シート「CARMIX」。特徴に興味を持った多くの企業でサンプル品を評価してもらっているが、当初想定したような売り上げにはつながっていないという。

 2008年に炭素複合シートの開発をスタートさせ、2010年に製品を生産できる状態にこぎ着け、以後は国内外の展示会で披露してきた。阿波製紙によれば、顧客の評価が高く、かつサンプル品で性能を確認してもらっていても、最終的にアルミニウム基板による従来通りの放熱手段を選択するケースが多々あるという。「強度が弱い」「水に弱い」といった紙からくるネガティブなイメージがあるからだ。こうした対策を施した品種も用意したが、払拭には時間がかかるようだ。

 それに加え、当初想定した「高所に取り付けて水銀灯の代替として用いる大出力のLED照明器具」は狙いはよかったものの、建築物や橋梁、トンネルなど個別の案件ごとに商談は進むので、発注量は1案件で1000個出荷すれば済んでしまう。定常的に売れ続けるわけではなく、量産効果が生かせない。

スマホやタブレットなどに使う熱拡散シートも狙う

 そこで阿波製紙は、LED照明器具向け以外にCARMIXの用途の模索を始めた。一例が、スマートフォンやタブレット端末などで使われる熱拡散シートである。熱拡散シートは、特定箇所の発熱を拡散させるために用いる。マイクロプロセサやRFなど発熱量が多い電子部品の周囲や端末の筐体内側など、熱拡散シートを使う箇所は増えている。スマートフォンやタブレット端末の出荷数量増の波に乗る形で、熱拡散シートの市場規模拡大も期待される。この有望市場に、CARMIXを投入したい考えだ。

 ただし、市場に投入するには解決しなければならない課題があるという。それは、熱伝導率をさらに高めることだ。現状の熱伝導率は、高い品種で64 W/(m・K)。熱拡散シートとして使うには「少なくとも、200W/(m・K)は欲しい」(阿波製紙)。材質内から空孔を減らして密着度を高めるなど、シートに加工する際の製造プロセスを改良する必要があるという。この他、放熱用で入れていた黒鉛の代わりに活性炭を使って脱臭機能を加えたCARMIXも用意する。