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紙作りの技術を生かしてLED照明を軽く、廃水処理装置にも乗り出す(前編)

阿波製紙

2013/09/17 00:00
大久保 聡=日経エレクトロニクス

 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 徳島編の第2弾として取り上げる企業は、阿波製紙(徳島県徳島市)である。「製紙」に用いる製造技術を活用し開発した、LEDなどの放熱基板や廃水処理装置を新規事業として進めている。

 放熱基板の最大の特徴は軽さである。アルミニウム基板に比べて重さが約1/3で済み、LED照明器具などを大幅に軽量化できるとする。廃水処理装置はMBR(膜分離活性化汚泥法)を用いることで、処理システムのタンク容量や余剰汚泥発生量を従来法の1/3程度に抑えられるという。いずれも同社は次なる事業の柱に育てる狙いだ。開発の経緯や開発技術の特徴などを聞いた。

モータリゼーションで事業が拡大し、電動化の進行で危機感

 阿波製紙の創業は1916年(大正5年)と古い。「製紙」と聞くとウッドパルプを使った紙を連想する。確かに、創業後しばらくは和紙事業を手掛けていた。同社の沿革によると、昭和初期には書道用半紙の市場シェアが25%を超えたときがあったほどだ。だが和紙では事業拡大に限りがある。そこで、戦後は製紙技術を使った工業製品の事業に舵を切った。

 現在では、和紙の製造は一切しておらず、同社が注力するのが機能紙と呼ぶ、各種機能を備えたシートの製造を手掛ける。例えば、吸着機能や耐薬品性、耐熱性などを持つ特殊繊維や粉体、合成繊維、無機繊維を溶液中に分散させ、シート状に加工にしたものだ。繊維状の物質を溶液中に分散させ、それを抄くって乾燥させてシート状に加工するという「紙抄き」の製法のみが、創業時から変わらないことといえる。

 機能紙で最初に工業化が大きく進んだのが、自動車用エンジン・フィルタである。日本のモータリゼーションの波に乗り、機能紙の事業が大きく拡大していった。現在では、自動車などに使われる各種フィルタや、海水の淡水化や超純水製造、飲料水ろ過などに用いる逆浸透膜(RO)支持体紙、自動車のクラッチ板用摩擦材など無機紙などに広がり、これらは阿波製紙の売り上げ全体の約8割を占める。

 機能紙の用途は拡大基調ではあるが、だが将来を見通すと危機感があるという。電気自動車など、エンジンを使わない自動車の比率が増えていくと、現状の主力事業の一つが縮小する可能性があるからだ。そのため、新たな事業の柱を用意しておく必要があるという。冒頭の放熱基板や廃水処理装置は、まさに新しい柱として期待するものだ。

 さらに、放熱基板と廃水処理装置はいずれも、従来の同社のビジネスモデルとは異なる形への挑戦となる。同社はこれまで、原材料として機能紙を製造・出荷してきた。このため、原材料が備える機能は、顧客が生産する製品に組み込まれて機能が発揮されていた(例えば、自動車用の各種フィルタは、機能紙がそのままフィルタとして機能するわけではない。それに対し、放熱基板と廃水処理装置は「機能として出荷することが特徴」(阿波製紙)である。最終的な機能を発揮できる状態の製品を出荷することになる。

 この他、従来は顧客ごとに仕様が異なるので複数の顧客間で原材料の共通化が図りにくく、量産効果に限界があったという。放熱基板や廃水処理装置は、それぞれ原材料を共通化することで量産効果を図れるとする。

「徳島だから」という発想から始まった放熱基板

 新規事業の製品の特徴について、個別に見ていこう。

 放熱基板は、黒鉛や炭素繊維といった炭素素材の粉体および繊維を、抄紙技術と加工技術によって湿式で形成した炭素複合シートである。阿波製紙は、「CARMIX」シリーズと呼ぶ。見た目は黒っぽい厚紙といったところだ。

CARMIXの外観。後方にある波型の物体は、CARMIXを折り曲げて形成した放熱基板の例
CARMIXの外観。後方にある波型の物体は、CARMIXを折り曲げて形成した放熱基板の例

 LED照明器具に使った事例では、当初、30cm×40cmで重さ5.2kgのアルミニウム基板を放熱基板として使っていたのに対し、CARMIXを使うことで1.8kgに軽量化できたという。強度を確保するためにCARMIXによる放熱基板の周囲に金属の補強材を設けたのだが、この1.8kgは補強材を含めた重さである。

 これだけの軽量化効果があるので、高所に取り付けて水銀灯の代替として用いる大出力のLED照明器具での利用を想定する。大出力のLED照明器具は投入電力が100Wクラスとなるので、消費電力が低いとされるLEDでも発熱量は大きくなりがちで、必然的にヒートシンクも大きく重くなる。高所に取り付けるとなると落下防止のための補強も必要となる。こうした課題を、CARMIXで解決できるとする。国内や韓国で納入事例があり、台湾向けでは少量だが最近売り上げが立つようになった。

 CARMIXの開発は2008年に着手した。徳島県内のLEDの研究会にて、県内企業の特徴を生かしたLED製品を開発することになったのがきっかけである。徳島には世界的なLEDメーカーである日亜化学工業があり、LEDを軸にした新産業創出の取り組みが盛んであり、その一環といえる。

 LEDを照明に使おうとすると、放熱材料が必要である。高出力になるほど、大きく、かつ重くなる。ここを軽量化する需要は大きいと考えに至った。阿波製紙が強みとする“紙”は、軽いのが利点。そこで放熱性を高めた機能紙の開発に取り組んだ。当初からアルミニウム基板の置き換えを狙っていたので、黒鉛や炭素繊維、SiCといった熱伝導率の高い材料を6~7種類を試したという。同社はグラファイトを取り扱った経験があるので、熱伝導率の高いシートを作製するのは慣れていたとする。

 なお、シートの作製は、熱伝導率の高い材料と、こうした材料を結び付ける化学繊維を水中に分散させ、抄紙技術でシート状に凝集させて得る。水にこれらの物質を均一に分散させて、シートにする際にも均一に水を抜いていく技術がカギを握っており、このノウハウが阿波製紙に蓄積されているとする。

軽さがLED照明器具の差異につながるはず

 今のところ、放熱に向けたCARMIXは厚さが異なる4品種と、引っ張り強度を高めた1品種の合計5品種を用意している。厚さの異なる品種は、薄い品種で80μm、厚い品種で240μmしかない。熱伝導率は、面方向でそれぞれ53W/(m・K)と64 W/(m・K)である。熱放射率は0.6~0.7ある。これらはシート状のまま使うだけでなく、折り紙のように山折りと谷折りを繰り返して蛇腹状にするなど、様々な形状に加工して利用することもできる。

 引っ張り強度を高めた品種は、紙の弱点である強度面と耐水面を強化した。他の4品種と異なり、成型用の樹脂を加えたことで、プレス加工に対応できるようにした。引っ張り強度は40MPa(N/15mm)を確保した。この品種は、「強度が弱い」「水に弱い」といった “紙”から来るネガティブなイメージを払拭するために開発したものである。

 “軽さ”に対し、国内だけでなく、中国や台湾、韓国などの想定顧客の評価は高いという。昨今、LEDモジュールは複数のメーカーから高出力品を入手でき、さほど経験がなくても電子回路を組めればLED照明器具が出来上がってしまう。そうなると、メーカー間のLED照明器具を差異化しにくい。それはLED照明器具メーカー自身、特に数多くのメーカーがひしめく中国をはじめとする海外メーカーが強い危機感を抱いており、競合と差異化できる特徴を欲している状況だ。阿波製紙によると、差異化ポイントとして紙を使った軽量化が注目されているという。