土壇場の変更

「もしもし。えっ、今さら図面を変えたい? 本当ですかっ?」
 2011年夏。ハードウエアの開発メンバーである藤川佳亮は、一瞬耳を疑った。いったん決まった金型の仕様を変えるというのだ。今日は、金型製造の最終チェックを行うため、製造を依頼した日本企業の担当者と工場のある韓国へ出張する日である。しかも、図面変更の電話を受け取った場所は空港の搭乗口だった。

 これから図面を持って金型製造の最終的な依頼をするというのに、このタイミングで図面を変更しろというのか。土壇場での変更に藤川は戸惑ったが、日本企業の担当者に頼み込んで、何とかその場で図面を変更した。

 変更は間に合ったが、図面を変えたことで金型コストが大幅に上昇してしまう恐れがあった。開発スケジュールの後半に差し掛かったタイミングでの、大幅なコスト増は痛い。
 しかし、これは杞憂に終わった。コスト増を予想よりも抑制できたのだ。金型の製造を依頼した日本企業がトイレッツを気に入っており、コスト面である程度融通してくれたのだった。

トイレッツのハードウエア開発メンバー。セガ プロダクト研究開発部 機構設計セクションの東口元彦氏(1)と同セクション 藤川佳亮氏(2)、同部 システムセクション 後藤智之氏(3)、同セクション 柏原崇生氏(4)。(写真:加藤 康)