10年前、業績を回復させつつあった国内デバイス各社は、次の10年に向けた手を打ち始めた。微細化のみに頼らない技術開発で新規応用を開拓するという長期戦略だ。

長期戦略●足元を固めつつ新アプリ創出

 各社は「カネのある今こそ10年後に向けた手を打つ時」と考え始めている。そのためには,直近の課題を解決して,たとえ低成長でも収益が出るように構造改革を進めることが前提になる。それと同時に高い売り上げの伸びを継続できるような“成長のエンジン”を開拓していくことが欠かせないとの認識も広がり始めている4)。成長のエンジンを開拓し,成長産業のシナリオを復活させて初めて日本の半導体やディスプレイは蘇る(図3)。

図3 ●1995年に成長率が大幅に鈍化
半導体の世界市場の出荷額は1960~1995年には平均して年率17%の成長を続けてきた。ところが,1996年以降は成長のペースが鈍った。2003~2004年には二ケタ成長するが,これが継続する保証はない。WSTSのデータを基に日経マイクロデバイスが作成。
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システムLSIからASSPへ

 直近の課題を列挙すると,(1)経営,(2)組織,(2)技術,(4)製品,(5)工場と多岐に渡る(図6)。

図6 ●半導体の課題解決はなかなか進まない
日本の半導体各社が,2003年までに挙げた課題の例と,その対策,現状を示した。好景気に沸く現在は,課題解決に対する関心が低いようである。日経マイクロデバイスが作成。
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 (1)経営の問題は,経営者の問題である。「キャッシュ・フロー経営をキャッシュ・フローの範囲内で設備投資をすることと誤解している経営者さえいる」と,手厳しい指摘をする関係者もいる。経営を知らない経営者がいるというのである。そればかりか技術に対する理解度がないことを棚に上げて「MOT(management of technology)やデス・バレー(死の谷)といった言葉を言い訳に使っている」と見る識者もいる。経営者が経営と技術に対する理解を深めるだけで,この問題は解決する5)

 経営の観点でもう一つ,儲けられるビジネス・モデルがないという問題がある。例えば大手メーカーが最先端プロセスに2000億円を投じたとして,これを5年で回収するには400億円以上の減価償却を毎年進める必要がある。そのためには20%の利益率でも2000億円の売り上げが必要になる。そのような大きな売り上げと高い利益率を上げられる製品を「脱メモリー」の戦略製品として開拓すべきである。こうした高い利益率は,日本の大手各社が取り組んでいるシステムLSIでは実現できないという可能性が高い。開発費が膨大で生産量が少ないためである。

 そうした投資回収モデルを構築できるのは,システムLSIよりも,同一品種で出荷数量を数多く見込めるASSP(application specific standardproduct)との指摘が多い。マイクロプロセサのIntel,携帯電話機の米QUALCOMM,Inc.,デジタル家電の伊仏STMicroelectronics社などが,その実例である。日本の中ではASSPの難しさを指摘する向きはあるが,DVDドライブLSIに強いMediatek Inc.など台湾のファブレス・メーカーもパソコンやデジタル家電向けのASSPで高収益を上げている(図7)。

図7 ●海外にはASSPで高収益を上げる企業が増えてきた
台湾の大手ASSP3社の業績を示した。MediatekはDVDドライブLSI,Realtekは液晶コントローラLSIや通信LSI,SunplusはグラフィックLSIに強い。3社の資料を基に日経マイクロデバイスが作成。
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