円安を追い風に、スマートフォンなどの需要を取り込んだ国内エレクトロニクス業界が潤い始めた。といっても海外大手との比較では依然として負け組だ。よく似た状況が10年前にあった。デジタル家電で業績を回復させた2003年度である。当時『日経マイクロデバイス』が特集した「これで良いのか?日本の半導体とディスプレイ」(2004年7月号)を載せた。記事が指摘している「(半導体業界における)成長シナリオ崩壊の可能性」は現実となっていないが、世界における国内エレクトロニクス勢のポジションは、決算を見る限り、多くの企業で当時より沈んでいる。社会インフラ分野など、非エレクトロニクス領域を含む市場の開拓が、本物の復活へのカギとなる。

 「デジタル家電の波に乗り徹底的に儲ける」。2001~2003年の不況時に日本の半導体・ディスプレイ各社が描いたこのシナリオがなかなか軌道に乗らない1)。売上高営業利益率は一ケタ台にとどまり,またしても横並び投資が始まった(図1)。もちろん「このままではいけない」と,現場は気付いている。

図1 ●半導体大手は好景気を迎えると改革を進めない
日本の半導体の代表的なパターン。シリコン・サイクルの谷では「脱メモリー」を進める が,山では再びメモリーで儲ける構造に戻る。WSTSの世界市場の出荷額。日経マイクロデバイスが作成。
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 日本の大手各社は2003年度決算で「前年度より売り上げが伸び利益が出た」と喜ぶが,米Intel Corp.,韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.などの売り上げの伸びと利益率の高さにははるかに及ばない(図2)。しかも各社は,2003年までの不況時に各社が掲げた問題の解決を先送りし始め,危機感が薄れてきたという指摘は多い。

図2 ●日本の半導体大手は営業利益率が低い
(a)日本と海外の代表的半導体企業の売上高営業利益率をプロットした。(b)日本の大手 12社の設備投資額の合計である。日経マイクロデバイスが作成。
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 「利益のあるいまこそ,中長期の戦略を立て直す時である」。このような声が多くのところで上がってきた。リストラをするにもカネが要る。まずは手付かずの問題を解決し,並行して次の“成長のエンジン”を生み出す。成長のカギは「脱エレクトロニクス」が握る。

 各社は,今回の好況を最後の春とするのか,戦略転換点にするのか2)。現時点の経営が問われるのは,次の景気後退期に利益を出し続けられるかどうかである。

1)「日本の半導体は大丈夫か」,『日経マイクロデバイス』,2002年1 月号,pp.53-121.

2)アンドリュー・S・グローブ,「インテル戦略転換」,七賢出版,1997年11月.