橋梁やトンネルなどの社会インフラが突然に崩壊する。あるいは地震で全壊する。こうした事故は、継続的なモニタリングで防げる場合がある。集めたデータから事故の予兆を発見する技術が存在し、予防的な対策が打てるためだ。モニタリングの初期コストは、1000億円近い橋に対して1億円ほどという例がある。前回の記事に続き、東京大学大学院教授の藤野陽三氏の講演から紹介する。

電車や自動車を走らせながらセンシング

図17 移動体センシングも有用
出典:ナノ・マイクロ ビジネス展(7月3日~5日、東京ビッグサイトで開催)と併設の「第19回 国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウム」での藤野氏の講演「社会インフラ(橋・道路等)におけるメンテナンスの重要性とセンサーへの期待」
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 インフラの事故や災害の防止を目的とした検査や計測では、当面は移動体によるセンシングと、埋め込み型のセンシングの両方を組み合わせていくことが重要と、藤野氏は言う(図17)。

 移動体によるセンシングとは、例えば、センサを積んだ自動車などを使って、連続して数十カ所の橋をセンシングしていき、日本にある橋全体の中で、状態がどのレベルにあるのかを確認することを指す。

 例えば、鉄道では「ドクターイエロー」と呼ばれる、新幹線の線路や架線の状態、信号電流の状況などを検査、計測しながら走る車両を使った移動体によるセンシングが知られている。

 ドクターイエローが走りながら検査・計測している最中にレールが割れたことがあった。実は、割れた場所では、その半年前から、外観の変化が生じていたのである。このため藤野氏は「破壊は前兆があって起こるもので、半年前、1カ月前、10日前の状態に、それぞれ違いがあるはず。線路をより頻繁に検査していれば、このレールの破断は防げた可能性がある」と強調した。この事実は、移動体によるセンシングを多く活用することで、多くのインフラ事故を防ぐことができる可能性を示している。