無線HD映像伝送は、リビング・ルームの勢力図を塗り替える破壊力を秘めている。HD映像伝送の機能を搭載するスマートフォンが広く普及すれば、アダプタを接続しなくても使える無線機能内蔵型テレビも登場するだろう。こうした動きが加速すると、テレビのあり方も大きく変わる(図4)。

図4 スマホがリビングのゲートウエイ端末に
図4 スマホがリビングのゲートウエイ端末に
無線HD映像伝送技術は、リビング・ルームの「主役」をテレビからスマホへと変える可能性を秘める。(イラスト:楠本 礼子)
[画像のクリックで拡大表示]

 これまでテレビはリビング・ルームの「主役」として、動画配信サービスやWebブラウザなどさまざまな機能を取り込んできた。しかし、スマートテレビがあまり普及していないことからもわかるように、テレビの多機能化はユーザーにそれほど受け入れられていない。今後は、逆の方向に進む可能性もある。つまり、スマートフォンがリビング・ルームでさまざまなデジタル情報を管理するゲートウエイ端末として機能し、テレビはその情報を映すだけの「ディスプレイ」機能に特化するという未来像だ注3)

 パーソナル・デバイスとして多くの人が1台ずつ保有する、スマートフォンの強みは大きい。どこにいてもクラウドなどの外部リソースにつなげることができ、動画やゲームなどのコンテンツも日を追うごとに増えている。こうしたコンテンツをリビング・ルームに送り込もうとする事業者からすると、無線HD映像伝送に対応するスマートフォンは、テレビよりもはるかに魅力的な“クラウドの窓(ゲートウエイ)”に見える。スマートフォンがリビング・ルームにありさえすれば、テレビは単なる表示板で済むということになりかねない。

 スマートフォンとは縁遠そうな自動車業界でさえ、トヨタ自動車などがクルマのセンター・コンソールの一部機能をスマートフォンに代替処理させる方向性を打ち出した。同様の動きがリビング・ルームで起きないとも限らない。スマートフォンのHD映像伝送機能搭載は、今後の家庭内ネットワークのあり方にまで、影響を及ぼしかねない動きといえる。

注釈

注3)シリコンイメージジャパン 代表取締役社長の竹原茂昭氏は「スマホは多くの人にとって、ライフスタイルの中心となりつつある。その流れで、家庭内ネットワークの中央に位置付けられるとみている」と語る。