日経テクノロジーオンライン

企画/開発/製造のすべてをガラス張りにせよ

肝はオープン体制の構築、外部活用で一品一様を実現(第1回)

2013/07/18 00:00
狩集 浩志, 清水 直茂, 高橋 史忠
出典:日経エレクトロニクス2009年3月23日号pp.66-69 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 ものづくりにパラダイム・シフトが押し寄せている。機器の自作を仲間と楽しむ「UGD」が,製造業の表舞台に躍り出る。開発・製造のアウトソーシング化や要素技術のオープン化が後押しする。大量生産体制の常識を捨てた者だけが,ユーザー参加の新しい潮流をつかめる。(Tech-On!の関連特集「誰でもメーカー」はこちら

 ユーザー自らがモノを作るUGD(user generated device)は,個人がモノを作りたい欲求を強くかき立てられる趣味性の高い分野が起点になりそうだ。個人の高いモチベーションがなければ,わざわざモノを作ろうとしないからだ。

 UGD発展のシナリオはこうだ(図1)。まず趣味性の高い分野において,ユーザーがこれまで世の中にない機器を企画する。以前は,その先の開発や製造は誰にでもできるものではなかった。しかし,ネット社会の拡大によって「集合知」を積極的に利用するようになり,専門家やメーカーを巻き込んで,技術的な課題や製造のハードルを越えることができるようになる。そして,出来上がった製品が同じ趣味を持つ人たちのコミュニティーで大きな話題を呼び,それが次の企画へとつながって新たなUGDが作り出される好循環を生む。

図1 UGD開発の流れ
個人がネットの集合知や,ネットで利用できる開発・製造サービスを使って唯一無二のモノを作れる。イラストは,軟体動物愛好家による「カタツムリ型掃除機」の開発イメージ。コミュニティーの存在も,他人より優れたものを作りたくなる仕掛けとして必須である。(イラスト:楠本 礼子)
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 これは決して絵空事ではない。今でこそ,カメラやパソコン,オーディオといった機器は我々の身の回りにある当たり前の製品だが,その始まりはいずれも趣味性の高い,いわゆるマニア品だった。これらの製品は登場した当時はUGDだったのだ。

 アイデアと技術の素養を持った人たちが自ら欲しいモノを作り出し,それを核に発展してきた。一部のユーザーがそれを熱狂的に支持することで市場が形成され,時代を経るうちに老若男女を問わず幅広い世代へと普及していったのである。

 例えばカメラの場合,一眼レフ・カメラは,日本では1960年代に当時の大学卒業者の初任給の数カ月分の価格であったにもかかわらず,一部の熱烈なユーザーが購入し始めた。それが価格低下のきっかけとなり,当初はプロフェショナルの仕事として利用されていたものが,個人が好きなものを,好きなときに,好きな場所で撮れる道具として普及したのである。

今の大企業にはできない

 残念ながら,こうした趣味性が高い製品を現在の大企業の体制から生み出すのは難しい。今でこそ製造をEMSに委託するのは一般的になったが,企画や開発などほとんどの過程はメーカー内に閉じている。こうした体制では,個人の自由な発想や発案は製品に反映されにくい。大量生産を前提とし,企画のときから売上高のノルマを課せられては,ヒットするかどうかも分からない趣味性の高い製品を世に送り出すことは簡単ではない。

 だからこそ,UGDに大きな期待が掛かる。今の体制でヒットを生み出しにくくなっている大手メーカーなどの閉塞感を打破する可能性を秘めているからだ。個人が自由な発想で企画し,オープンな情報インフラを活用して作ったモノが,かつての一眼レフ・カメラと同じ道のりをたどるのも,決して空想の世界の話ではない。

ユーザーが関与できる体制に

 ただし,UGDの実現には,乗り越えなければならない多くの壁がある。ゴールは,企画,開発,製造というモノづくりの過程でユーザーが関与できるオープンな体制を構築することだ(図2)。これまでメーカーが一元管理し,閉ざしてきたこれらの過程をユーザーに開放してしまうというのは一見,不可能のように思える。だが,実現に向けてのいくつかの片鱗は既に見え始めている。

図2 UGD時代への体制の変化
個人が求めるものを作るUGD時代には,これまでのメーカー主導での体制と比較して,企画や開発,製造といった各過程やコミュニティーのかかわり方に大きな違いが生じるはずだ(a,b)。
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 そのほとんどは,ネット社会の拡大によるオープンな情報インフラの拡充によってもたらされている。コンテンツの世界ではUGC(user generated content)と呼ぶ,ユーザーが作成したものが不可欠な存在となり,コンテンツ事業拡大の大きな推進力になっているのが参考になる。

 UGDを実現するには,UGCと同じことをハードウエアの企画,開発,製造といった各過程で起こさなければならない。具体的には,企画の段階では個々の消費者の発想や発案を積極的に取り入れることが必須である。

 例えば,文具や食品,雑貨といった業界では,ユーザー参加型の商品企画によって実際の製品が市販化されている。アパレル業界ではプロの発想を超えたアイデアを持つカリスマ的なユーザーが登場している。こうしたカリスマ・ユーザーのファッション・スタイルをプロのデザイナーが洋服のデザインの参考にするといった事例が登場しているほどだ。

オープンな開発体制

 開発の段階で重要なことは,さまざまな分野の専門知識を容易に活用できる,オープンな環境を構築することである。幸いなことに情報インフラは拡充し続け,専門家の協力を得たり,他者が持つ知的所有権を活用できたりするWebサイトが次々に登場している。自社の開発体制を強化するために,これらのWebサイトを活用する企業も数多く出てきた。

 中には,これまで閉ざされていた研究開発体制をオープン化し,社外に対して必要とする技術の募集内容を公開する企業も登場している。この状況が発展すれば,個人でもこうしたWebサイトを活用したり,技術を公募したりすることで,UGDを開発できる体制が整うはずだ。

試作は1個単位で

 製造の段階では,これまでの「大量生産」一辺倒だった体制から「一品一様」体制への移行を求められる。筐体や部品の調達から組み立て,ソフトウエアの実装まで,より簡単にかつ安価で実現しなければならない。さらに,仕上がった製品の品質をどのように担保するのかも大きな課題になる。

 その体制への移行の片鱗を見せているのが,試作分野である。既に筐体の試作では従来より安価で,短納期かつ一品一様な製造が可能な体制を実現している。

 プリント基板でも安価で短納期の試作サービスが登場し,図面さえあれば,数日のうちに試作品を受け取れる。将来はUGDに向けて,1個単位で,しかも安く製造する体制が整うだろう。

 出来上がった製品の品質保証については,製造をEMSに委託する企業などでは,仕様のすべてを,部品やソフトウエアを供給する企業に対してオープンにすることで,品質を担保してもらう仕組みが確立している。。

 このように,企画,開発,製造の各過程でUGDを実現可能にするための取り組みがどんどん広がっている。こうして登場したUGDをますます発展させていくには,同じ趣味を持つユーザー同士が情報を共有したり,自分の“作品”を自慢できたりするコミュニティーの活性化が重要なテーマとなるだろう。

 既に料理の世界などでは,その仕様をレシピや設計図という形で公開するWebサイトの人気が高まっている。ユーザーが実際に作った仕様をWebサイトで公開し,それを異なるユーザーが実際に採用して評価する。こうした仕組みが,ユーザーの次の作品に取り組むモチベーションを高めることで,コミュニティーの活性化につながっていく。