ものづくりにパラダイム・シフトが押し寄せている。機器の自作を仲間と楽しむ「UGD」が,製造業の表舞台に躍り出る。開発・製造のアウトソーシング化や要素技術のオープン化が後押しする。大量生産体制の常識を捨てた者だけが,ユーザー参加の新しい潮流をつかめる。(Tech-On!の関連特集「誰でもメーカー」はこちら

 ユーザー自らがモノを作るUGD(user generated device)は,個人がモノを作りたい欲求を強くかき立てられる趣味性の高い分野が起点になりそうだ。個人の高いモチベーションがなければ,わざわざモノを作ろうとしないからだ。

 UGD発展のシナリオはこうだ(図1)。まず趣味性の高い分野において,ユーザーがこれまで世の中にない機器を企画する。以前は,その先の開発や製造は誰にでもできるものではなかった。しかし,ネット社会の拡大によって「集合知」を積極的に利用するようになり,専門家やメーカーを巻き込んで,技術的な課題や製造のハードルを越えることができるようになる。そして,出来上がった製品が同じ趣味を持つ人たちのコミュニティーで大きな話題を呼び,それが次の企画へとつながって新たなUGDが作り出される好循環を生む。

図1 UGD開発の流れ
個人がネットの集合知や,ネットで利用できる開発・製造サービスを使って唯一無二のモノを作れる。イラストは,軟体動物愛好家による「カタツムリ型掃除機」の開発イメージ。コミュニティーの存在も,他人より優れたものを作りたくなる仕掛けとして必須である。(イラスト:楠本 礼子)
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 これは決して絵空事ではない。今でこそ,カメラやパソコン,オーディオといった機器は我々の身の回りにある当たり前の製品だが,その始まりはいずれも趣味性の高い,いわゆるマニア品だった。これらの製品は登場した当時はUGDだったのだ。

 アイデアと技術の素養を持った人たちが自ら欲しいモノを作り出し,それを核に発展してきた。一部のユーザーがそれを熱狂的に支持することで市場が形成され,時代を経るうちに老若男女を問わず幅広い世代へと普及していったのである。

 例えばカメラの場合,一眼レフ・カメラは,日本では1960年代に当時の大学卒業者の初任給の数カ月分の価格であったにもかかわらず,一部の熱烈なユーザーが購入し始めた。それが価格低下のきっかけとなり,当初はプロフェショナルの仕事として利用されていたものが,個人が好きなものを,好きなときに,好きな場所で撮れる道具として普及したのである。