前回紹介したように、当時の本田技術研究所の雰囲気は、ある意味でホンダ創成期の神話である。企業が成長するに従って、“優秀な学生”が多く入社し、“スマートで上品な人たち”が増えていった。ところがホンダには、異質性や多様性を伸ばすための独自の仕掛けがある。これは後述するが、その前にイノベーションになぜ異質性や多様性が必要なのかを整理しておこう。

 「【Part2】第1回 なぜ上司はイノベーションに反対するのか」で、イノベーション(創造)とオペレーション(執行)の違いを説明した。オペレーションとは「社員の給与計算」のような典型的な定型業務だけではなく、クルマのフルモデルチェンジなどもカバーする定常的な執行業務のことで、企業活動の95%を占めている。例えていうと、オペレーションは「魚がいる湖を前にして、効率よく魚を釣る方法を見つけること」だ。目標が明確でピンポイントに絞り込まれているので、そこに全力を集中できる。武器となるのは分析と論理だ。

 一方、イノベーションは「手掛かりがほとんどない中で、釣りたい魚のいる湖(宝の在りか)を探す」ことから始めなければならない。広大な領域をサーベイする必要があるので、とても分析しきれない。その際、「ここに湖がありそうだ」と当たりを付けるのに、異質性と多様性が不可欠なのだ。