現実解を提示したTizen

 Linux FoundationのTizen Projectが管理するTizenは、「MeeGo」と「LiMo」を統合する形でスタートした。Tizen Projectは、2013年2月に最新版の「Tizen 2.0」を公開した注3)。このTizen 2.0の開発を主導し、採用端末を真っ先に投入する計画を表明したのが韓国Samsung Electronics社だ(図5)。

図5 まずSamsung社が動いたTizen
Tizenを搭載したスマートフォンは、Samsung社が先行して製品化する見通し。NTTドコモやFrance Telecom社が取り扱う予定だ。HTML5アプリ用に、W3Cが策定するAPIに加えて独自のAPIを用意した。
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 TizenはHTML5でのアプリ開発を基本としているが、この最新版からC/C++言語によるネーティブ・アプリにも対応した。「端末開発では新しいハードウエアに対応させたいという要求もある。それを満たすための現実解として用意した」(NTTドコモ マーケティング部 担当部長 戦略アライアンス担当で、Tizen Associationの議長を務める杉村領一氏)。ネーティブ・アプリに対応する部分は、Samsung社のモバイル用Linux OS「Samsung Linux Platform」(SLP)の成果を流用している(「Huaweiの参加はTizenがオープンであることの証明」参照)。

Huaweiの参加はTizenがオープンであることの証明
杉村 領一氏
NTTドコモ マーケティング部 担当部長 戦略アライアンス担当 兼
Chairman of Tizen Associatiton

 今から1年少し前に、Huawei Technologie社がTizen Associationのボード会員になったことを発表した。これには、我々にとって非常に大きな意味があった。

 Tizenは、開発を主導したSamsung Electronics社からの参加者が「頼むからSamsung色を消すのに力を貸してくれ」と常々語っているように、Samsung社の色が強いと見られている。そこで、Samsung社の競合でもあるHuawei社に、「本当にオープンなプロジェクトとして運営できているか」を徹底的にチェックしてもらった。運営員会などで厳しいやり取りを繰り広げた末に、Huawei社は参加を決めてくれた。第2、第3の端末メーカーが加入できるオープン性をTizenが持っていることを証明できた。

 Tizenの源流の一つである「LiMo」では、管理されたコンテンツやサービスを利用する、いわゆる「ウオールド・ガーデン・モデル」を想定していた。そこから、世の中は劇的に変わった。特定の企業が定めるのではないHTML5を基本に据えながら、アプリやサービスをなるべくオープンな形で作れるようにするという判断に至るのは必然だった。

 Tizenを採用した端末は2013年下期に登場する。いきなり端末の機能がガラッと変わるような大きな変化が起きるわけではない。我々が用意するのは、携帯電話サービス事業者や端末メーカーなどが独自の工夫を盛り込める環境だ。それによってユーザーに少しずつ新しいメリットを提示してもらうという正のスパイラルを回していきたい。

 Firefox OSとTizenは兄弟のようなものだと思っている。「アプリをHTML5化する」という未来を認知してもらうことを目標に置いている点で我々とMozilla Foundationは同じだ。純粋な競合だと考えずに、HTML5への移行を促すために協力していきたい。(談)

注釈
注3)Tizen Projectでは、携帯機器向けの「Tizen Mobile」と車載情報端末向けの「Tizen IVI」の開発が進んでいる。両者は将来的には統合予定だが、統合方針などは未公表である。