テレビなど各メディアがこぞって“個人でものづくり”ができる時代が来た…と紹介し続けている「3Dプリンター」。3D設計ビジネスに長年携わってきた著者の目には、突然やってきた“モテ期”が不思議に映る。というのも、3Dプリンターと呼ばれる機械の歴史は意外に古いからだ。ではなぜ、急に注目を浴びるようになったのだろう…。

 明らかな「追い風」は、2012年10月に発売された「Makers」(クリス・アンダーソン NHK出版)である。アメリカでは、ものづくりのあり方が変化していることを述べたこの書籍が、象徴的な存在として「3Dプリンター」をとりあげたのだ。「ものづくりはパーソナルなものになりえる」というテーマの分かりやすい実例として。3Dデータを流しこみさえすれば、オリジナルな立体が何もなかったところに出現する。

 ごく簡単にこの原理を説明してみよう。立体物の3DデータをPCのソフトで薄くスライスする。スライスしたデータはほぼ平面だ。これをインクの代わりに溶かした樹脂で台の上に印刷する。1枚が印刷できたら、その上に次の1枚を溶かした樹脂で印刷する。溶けてるから前の2枚はくっついて2倍の厚さになる。これを繰り返すのが3Dプリンターだ。溶けた樹脂の代わりに金属の粉とレーザーを使う方式などもある。

写真提供:TSDESIGN

 ものづくりのパーソナル化が報じられるのと同時に、安価な3Dプリンターが登場してブームに火をつけた。従来からあった3Dプリンターは、数千万円以上と高価で特殊な工作機械で、一部の大手メーカーが試作に使う限られた用途のものだった。

 それがいきなり、個人でも購入して使いたいと思えば可能な状態になったのだ。もちろん、作れるものの大きさや寸法の精度などは高価な専用機とは比べるべくもないのだが…。安価な3Dプリンターが何もないところにモノを作り出す様子が、youtubeやテレビで報じられると注目度は爆発的に高まった。

 初期に登場した「パーソナル3Dプリンター」は技術に相当詳しいマニア向けのものだった。組み立てキットとして売られ、買ってきてすぐに使えるものではなかったのだ。しかし最近は、必要最低限の調整で使える。2013年の今はそんな段階である。