大型の薄型テレビ,デジタル家電,カメラ付き携帯電話機の市場は拡大を続け,デバイス業界の前途は明るい。しかし,既存の市場と技術に依存したままで安定した利益を享受できるデバイス・メーカーはあまり多くない。圧倒的な投資余力と市場占有率を持つ米Intel Corp.や韓国Samsung Electronics Co., Ltd.以外にどれだけあるか。大半のデバイス・メーカーは,新たな収益をもたらす市場と技術を探る必要がある。その新市場のキーワードが「ユビキタス」,「バイオ」である。技術では自立電源,革新的な製造技術,物性そのものに変化をもたらす材料技術が重要になる。

 ロームが,次の収益源を見いだそうとしている。狙うのは,ナノバイオニクス,新材料,光デバイスなどの分野である。半導体とは無縁に見える新領域に乗り出し,これまで蓄積した既存技術との融合によって,新市場を創出していく注1)。既存のLSIや電子部品に甘んじることなく,「次のメシの種」を非エレクトロニクス分野にまで求める注2)―――。「勝てる場所でしか勝負しない」と評される同社の向かう先には,デバイス・メーカーの未来像がある注3)

注1)バイオ関連市場には,ロームのほかに,日立製作所,独Infineon Technologies AG.,松下電器産業,東芝など,多くの半導体メーカーが注目,開発を進めている。

注2)非エレクトロニクス分野についての議論は,「IEDM(International Electron Devices Meeting)」や「ISSCC(IEEE International Solid―State Circuits Conference)」といった学会でも活発になり始めている。2003年12月の「2003 IEDM」と2004年2月に開催する「ISSCC 2004」では,一見すると半導体とは無縁に思える発表が多い。IEDMでは,“Drug delivery:A New role for implantable electronics”と題するランチョン・セッションがあった。「ドラッグ・デリバリ」とは,専用のデバイスが人体に入り込んで適切な場所で薬を投与する技術を指し,デバイスの実現にはMEMS(micro electro mechanical systems)技術が有効となることを示した。ISSCC2004には,“Biomicrosystems”というセッションが初めて登場,独Infineon Technologies AGが「DNAチップ」について発表する。

注3)ロームについては,野村證券金融研究所の林隆一氏が「『勝てる場所でしか勝負しない』企業」と題してレポートを発行している。

 新領域に向かう新たなベクトルは,製造プロセスの世界にも現れた。製造プロセスの技術ロードマップを示すITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)の最新版には,次世代露光技術の候補として45nmまでは「ArF」や「F2」などの見慣れた用語が並んだが,32nm以降には“ナノインプリント”という言葉が初めて記載された。これは,短波長化や高NA(開口数)化といった既存のトレンドから外れた新技術である注4)

注4)キヤノンが2003年12月に開催したセミナー「Canon Technical Conference 2003」でもナノインプリントという言葉が出てきた。「次世代リソグラフィ技術の最近の動向」と題する講演中,松下電器産業の笹子勝氏が将来の製造技術の候補として挙げた。

 このように“亜流”と見られていた新領域がここに来て関心を集めているのは,多くのデバイス・メーカーにとって“本流”だった市場と技術に陰りが見え始めてきたからである。「本流を見直し,亜流に次を見いだす」。これが,次代の勝ち組を狙うデバイス・メーカーの基本戦略となりつつある。