ユーザー参加型のものづくりがもたらすパラダイム・シフトと,どう向き合うべきか。製造業の研究開発や商品開発の改革からサブカルチャー論まで幅広い分野で活躍するアーサー・D・リトル(ジャパン)の川口盛之助氏は,いじりたくなる仕掛けを埋め込むことこそがユーザーの製品への愛着を取り戻すカギになると指摘する。

タイトル
川口 盛之助(かわぐち・もりのすけ)氏
アーサー・D・リトル(ジャパン) プリンシパル。慶応義塾大学工学部卒業,米University of Illinois理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品,生産技術などの開発に携わった後,KRIを経て,アーサー・D・リトル(ジャパン)に参画。現在は同社 プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略,商品開発戦略,研究組織風土改革などを手掛ける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)など。(写真:中野 和志)

 近い将来,「プロシューマー(生産消費者=生産に加わる消費者)」が製品を企画・開発するモノづくり革命が製造業に押し寄せる。インターネットの世界では,ユーザーがコンテンツやソフトウエアを制作・発信する基盤が登場し,いわゆるユーザー参加型メディアが台頭した。

 今後,これと同じ動きが実体のある“モノ”の世界に広がることになるだろう。ソフトウエアのオープンソース化やハードウエアのモジュール化など,目利きのユーザーが数多くの機能モジュールから面白いと思うものを組み合わせ,新しい製品や使い方を考案する環境が整いつつある。

 ファッション業界のように製造工程が比較的単純な分野では,既にその兆しが見えている。アパレル・メーカーは,ストリート・ファッションの着こなしから流行を予測し,洋服やアクセサリーのデザインに活用し始めた。街のファッション・リーダーによるコーディネートの発想力が,メーカーの流行発信力を超えたわけだ。

 自動車の分野では,萌え系のアニメ・キャラクターのイラストなどをデコレーションした「痛車」と呼ばれるカスタム・カーがマニアの間で人気だ。粘着剤付きフィルムに業務用のライン・プリンターで描画したイラストを自分で切り抜いて張り付ける。従来はエアブラシで塗装するといった職人技が必要だったが,プリンター技術の普及でユーザー自らが作れるようになった。今や,痛車マニアの数は数万人規模とも言われている。

 ユーザーが自分好みのモノを作る動きは,カスタマイズが比較的簡単な機器の外側の意匠部分から始まり,次第に心臓部に入り込んでいくだろう。手軽に使える自作ツールが普及することで,ユーザー参加型のモノづくりは草の根的に広がりそうだ。