ものづくりにパラダイム・シフトが押し寄せている。機器の自作を仲間と楽しむ「UGD」が,製造業の表舞台に躍り出る。前回の「“自作”が変える、ものづくりの姿」では,デジタル家電向けの簡易型ソフトウエア「ウィジェット」や,Webサービスと連動する機器「Webガジェット」を例に,エレクトロニクス業界で始まったUGDの萌芽を紹介した。こうした動きは,消費者の発想がメーカーを超えつつある現状を映し出している。

 エレクトロニクス業界で始まったUGDの萌芽は,ユーザーのユニークな発想から新しいデジタル家電の楽しみ方が生まれることを期待する取り組みといえる。機器メーカーが用意したプラットフォームの上で,メーカー側が想定していなかった使い方をユーザーに考えてもらう。その使い方に多くのユーザーが共鳴すれば,その機器はヒット商品の仲間入り,というわけだ。

 もちろん,ユーザーが生み出した想定外の使い方が機器やサービスの思いがけない普及に貢献することは,以前からあった。だが,ここにきて,“想定外”が起きる可能性は以前より格段に高まっている。インターネットの普及による「ネット口コミ」の拡大で,他のユーザーが発信する製品の使い方や評価を知ることが容易になったからだ1)

 今や,ユーザーはメーカーやマスコミの情報を一方的に受け取るだけではなくなった。メーカーが持つ技術などの専門情報をユーザーが簡単に得られる環境が生まれているのだ。その状況は最終製品だけでなく,より専門性が高く要素技術に近い研究開発の分野にまで浸透しつつある。

 「3~4年前から研究開発の様相が変わった。動画共有サービスなどの普及で,研究成果が直接,消費者の目に触れるようになったからだ。結果,消費者のアイデアで,研究者が思ってもいなかった方向に技術が発展する現象が生じ始めている」。ユーザー・インタフェースの研究などで著名な東京大学大学院 情報学環の暦本純一教授はこう指摘する。

 大手家電メーカーのある技術者は打ち明ける。「最近,メーカー側で思い付く発想をユーザーが超えてしまっていると感じることがある」と。現在の家電メーカーを取り巻く新製品開発にかかわる閉塞感の一つは,ここに起因するのかもしれない。

 メーカーを超えた発想を持つユーザーは,メーカーが提供する完成品だけでは満足できなくなっている。自分が使いたい,楽しみたいと思う機能を,自由に作れないことが多いからだ。特に,物心が付いたときからネット・サービスが身近にある若い世代では,それが顕著だとの見方は強い。「今の若い消費者は20年前とは全く違い,受け身ではない。製品の使い方に発言権を持ち,インターネットの普及によって機器の新しい使い方さえ発想したいと考える消費者が増えている」(ソニーのHoward Stringer会長兼CEO)。