わざわざクラウドを経由するのは、なぜか

 しかし、ローカル方式には、必ずしもすべてのユーザーが利用できるわけではないという課題があります。その理由は、無線LANを用いた家庭内ネットワークの敷設を前提としているからです。サービスを利用するために新たに無線LANを設けるハードルは高いですし、仮に無線LANを設置していても携帯端末を常に無線LANで通信させているユーザーは意外に多くありません。携帯端末は、移動通信網を用いたデータ通信機能をほぼ標準で備えています。家の中でも、移動通信網を使っているケースが少なくないでしょう。

 そこで、NTTぷららは、前述した「りもこんプラス」でローカル方式とは異なる技術をスマートリモコンに採用しました。

 技術の特徴は、携帯端末からテレビに外付けするSTBに操作コマンドを送る際に、家庭の外のブロードバンドを介している点にあります。つまり、手元の携帯端末から数mの目の前にあるSTBに操作コマンドを送信する際に、わざわざ家庭の外の通信ネットワークを経由しているわけです。家庭内ネットワークを用いるローカル方式に対し、これを「クラウド方式」と呼んでいます。

 具体的には、スマートリモコン・サービス用に設けたWebサーバーを経由して、携帯端末のアプリとSTBが操作コマンドをやり取りします。クラウド方式を使うことで、ユーザーは普段利用している移動通信網をそのまま使いながら、携帯端末をスマートリモコンとして活用できるわけです。光回線でサービスを提供するひかりTVのSTBは、もともとインターネットにつながっていることが前提になっています。

 移動通信網だけでスマートリモコンを実現できるクラウド方式は、多くのユーザーに利用してもらえる環境を整えやすい利点があります。さらに、ユーザーが望むデータをサーバー側で選んだり、制御したりする仕組みをローカル方式よりも実装しやすい。サービスを拡張したり、外部の新しいサービスと組み合わせたりする仕組みを導入しやすくなるわけです。

 ここまで読んで、疑問を感じた読者もいるでしょう。コマンドの伝送遅延はどうするのかと。

 確かに通信路の品質や、大量のアクセスによるWebサーバーへの負荷は伝送遅延を引き起こす可能性があります。しかし、今回開発したスマートリモコンでは、家庭の外の通信ネットワークを用いながら、赤外線リモコンの応答時間とほぼ同等の伝送遅延による操作コマンドの送信を可能にしました。

 それをどのように実現したのか。次回からは、実現手法を解説していきたいと思います。

山口 英夫(やまぐち・ひでお)氏
NTTぷらら 技術開発部 チーフエンジニア。2007年NTTコミュニケーションズ入社。入社3年目で現会社へ出向し、現職に至る。主にひかりTVのVODおよびその周辺システムの開発を手掛ける。趣味は映画鑑賞、登山。

宮里 系一郎(みやさと・けいいちろう)氏
NTTぷらら 技術開発部 部長。1995年日本電信電話入社。入社以来一貫してインターネット上のサービス開発に携わる。最近10年間は映像・音楽配信を中心としたシステム開発・サービスの立ち上げに従事。2012年より現職。