スマートフォンはコンピュータの1種であるためにCPUコアは重要だが、電話機として見ればベースバンドチップも大きな役割を担う。携帯電話事業者からの認証ということを考えれば、CPUの性能以上に、ベースバンドデバイスの重要性は高い。

 2007年のiPhoneをきっかけとして普及が始まったスマートフォンは、その端末やデバイスの主導権をEU圏の企業からアメリカ、アジアの企業へと移していった。好調だったフィンランドNokiaの業績悪化の一方で、米AppleのiPhoneの出荷台数が増え、Androidによって韓国Samsung Electronicsは大きくシェアを伸ばした。これまで、音声中心で、データ通信からほとんど利益を上げていなかった米国の携帯電話事業者もデータ通信から大きな利益を上げるようになり、そのためにネットワークが逼迫、LTEが急激に立ち上がった。

 こうした背景もあり、EU圏の半導体メーカーやセットメーカーには逆風が吹き始め、数年前から再編が起こりつつある。

再編進むベースバンドデバイス企業

 最近も、スイスSTMicroelectronicsとスウェーデンEricssonが2013年3月18日、ジョイントベンチャーであるST-Ericssonの合弁解消を発表した。実は2Gから3G、さらにLTEへの移行にあたり、ベースバンドデバイスの企業の再編が起こりつつある。

 2G方式では、EU圏で開発されたGSMが世界中に普及し、EU圏の半導体メーカーがそのベースバンドデバイスを製造、EU圏の端末が広く販売された。GSMの開発にあたっては、EU圏の企業のみ(EU外からは米国のモトローラのみ参加)で開発が進んだために、初期段階で有利にビジネスを進めることができた。さらに2G方式として世界中で広く使われることになったために、EU圏の半導体メーカーやセットメーカーが成長できた。

 しかし、3Gでは、IMT-2000という形で3つの方式が規格となった。規格化したことで、米Qualcommなど、EU圏外の企業も参入が容易になったため、2000年代後半、EU圏のベースバンドデバイスメーカーは統合が始まった。フィンランドNokiaもチップセットの自社開発をやめ、外部からの調達に切り替えた。このとき、チップセット部門を買ったのが日本のルネサス テクノロジ(当時)であり、一部の技術者を引き受けたのがST-Ericssonである。

 ST-Ericssonは、Ericssonの通信デバイスメーカーだったEricsson Mobile PlatformとST-NXP Wireless(STMicroelectronicsとオランダNXP Semiconductorsの通信デバイス部門から作られた企業)を統合してできた企業だ。STMicroelectronicsは、その前にフランスAlcatel(現Alcatel-Lucent)の半導体ビジネス部門を引き受けるなど、モバイル通信デバイスの再編では大きな役割を果たしていた。

 それ以外にも欧州の半導体メーカーをめぐる動きは数多い。米Intelが買収したベースバンドデバイス事業を持っていたのはドイツInfineon Technologiesだが、もともとこの企業はドイツSimensの半導体部門だった。そのほか米NVIDAが買収したベースバンドチップメーカーであるIceraは、英国のファブレス半導体企業だっだ。

 スマートフォンに関連した半導体ビジネスは、こうした再編の渦中にある。