特許法改正で自国の産業保護を強く打ち出す中国。見えてくるのは,日米欧の知財制度を学び尽くし,政府による特許の管理を軸に,力ずくで技術覇権を奪う姿勢だ。

 中国の知財制度に詳しい弁理士の黒瀬雅志氏は,法改正や標準化などを軸にした中国の知財戦略の特徴が「政府による技術の管理にある」と分析する。特許制度は一般に「技術の創造」「特許による保護」「特許の活用」というサイクルが基本。このサイクルの先に「管理」を加えることで,自国の産業を保護し,技術競争力を高める狙いである(図1)。

図1 政府による特許の管理が鮮明に
2009年10月施行の改正専利法などに象徴されるように,中国では行政機関が発明(技術)を管理する姿勢が強まっている。従来の特許制度のサイクルに管理を加えて,国の競争力を高める狙いだ。

 もちろん,日本などでも特許は行政機関が管理する。ただ,企業が特許を“どう使うか”までは基本的に管理していない。「特許技術を企業がどう使うか,どこの企業にライセンスされているかといった技術の流れや動きを,中国政府は監視している。それが最大の違いだ」(黒瀬氏)。

 改正専利法についても,管理を強化する方向の「ムチ」を課す一方で,制度を国外の基準に合わせる「アメ」を用意する制度改革になっている。ムチとなる規定は「日本や米国などの法制度を学び,WTO加盟国が順守すべき知財の基準を定めた『TRIPs協定』に違反しないように,よく練られている」と,多くの法律関係者が舌を巻く。

 中国国内で開発した技術を海外に特許出願する際に,行政機関の秘密保持審査を受けることを義務付けた。一方で,これまで中国に限っていた特許の第1出願国を自由に選べる「アメ」を欠かしていない。

 国内だけではなく,既に海外で公になっている技術やデザイン(意匠)を,新規性などを判断する基準に加えるといった改正内容もある。これは,日本や米国などの世界的な特許の判断基準に合わせる動きだ。

 従来法では,海外で既に販売されたり使用されたりしている技術(公知公用)であっても,中国国内で新規性などがあれば特許として認められていた。前回紹介した富士化水工業の事件でCEPT社の特許が認められたのは,こうした背景があるとみられている(前回記事「環境メーカーは見た、中国特許の不可思議」)。このため,法改正で,同様の事件は起こりにくくなると期待する声もある。