知財で技術覇権を狙う

 国を挙げて“知財大国”を目指す中国。2009年10月には,改正専利法が施行された。1984年の専利法制定以来,1992年,2000年に続いて3回目の大きな法改正だ。

 特許庁出身で,日本貿易振興機構(JETRO)の北京センターに駐在経験を持つ弁理士の日高賢次氏(日高東亜国際特許事務所 所長)は,「過去2回の改正は,WTO(世界貿易機関)加盟への対応など外圧による側面が大きかった。今回は,中国が自主的に改正した初めての例」と解説する。

 法改正の内容などから見えてくるのは,知的財産戦略で世界の技術覇権を握ろうとする中国の姿だ。特許だけではない。巨大な国内市場を背景に,国際標準とは異なる独自の標準規格を打ち出す動きも相次いでいる。

 2008年に中国政府が公表した情報セキュリティー製品の安全認証制度は,象徴的な例だろう。中国独自の技術認証制度の導入で,ソフトウエアのソース・コード開示を求められると物議を醸した。このほかにも,家電や通信分野などで独自の標準規格を次々とぶち上げている。

 中国の知財制度に詳しい,協和特許法律事務所の副所長で弁理士の黒瀬雅志氏は「将来は,中国の標準に対応していない製品を中国国内で売ることができなくなるだろう。勝手に標準に対応すると,中国企業が特許を持っていて高額のロイヤルティーを要求されるといった可能性もある」と懸念する。

 中国では国内からの特許出願数が急増している(図2)。日本の特許に当たる発明特許の国内からの出願数は,2009年に対前年比17.7%増の22万9096件。2008年秋以降の世界同時不況の影響で,日本をはじめとする先進国で特許出願数が軒並み減少傾向にあるのとは対照的だ。中国企業から特許侵害で提訴された富士化水工業の事件は対岸の火事ではない。

図2 急増する特許,旺盛な出願
中国の発明特許の出願数は,2009年に対前年比8.5%増の31万4573件。うち,国内からの出願数は約7割の22万9096件で,前年に比べ17.7%増えた。実用新案や意匠は,ほぼ9割が国内からの出願。中国知識産権局の公表データから。