環境調査の依頼主を提訴

 後石発電所の建設に関する発表がなされたのは1995年11月のこと。CEPT社が海水脱硫技術の特許を中国で出願したのは,その1カ月後の1995年12月である。

 実は,1997年にCEPT社は華陽電業から後石発電所の環境影響評価(アセスメント)の依頼を受け,調査を実施している。その後,1999年にCEPT社の海水脱硫技術の特許が成立し,今回の訴訟に至った。つまり,CEPT社は華陽電業の環境対策をつぶさに観察した後で,依頼主を訴えたわけだ。関係者によれば,CEPT社は調査の間,特許を出願している事実を明らかにしなかったという。

 もう一つ興味深いのはCEPT社の発明の内容だ。専門家によれば,特許に記されているのは,海水脱硫技術の基本的な処理プロセス。すべての海水脱硫技術が,侵害の対象になる可能性があるという。

 海水脱硫は,数十年前から多くの工場や火力発電所などで世界的に使われている技術だ。もちろん,処理の効率化を高めるなどの工夫は今も続く。だが,日本などの基準に照らせば,基本プロセス自体は1990年代半ばに特許性が認められるような技術ではなさそうだ。

 実際,富士化水工業は1995~1997年に,華陽電業を設立した台湾の大手企業グループ,Formosa Plastics Group(台塑集団)の関連会社が運営する台湾の発電所に,後石発電所のものと同じ技術を納めた実績があった。これらを盾にCEPT社の特許無効を主張したが,裁判では認められなかった。「技術を使っているのは,中国法の有効な地域ではない」という理由だ。

 環境調査を担当した企業が調査時期の前後で特許を取得し,その特許を侵害したと依頼主を訴える。真相は薮の中だが,日本メーカーの常識からすると訴訟の過程には不透明感が漂う。