特許法改正で自国の産業保護を強く打ち出す中国。見えてくるのは,日米欧の知財制度を学び尽くし,政府による特許の管理を軸に,力ずくで技術覇権を奪う姿勢だ。

 2009年12月21日。日本の最高裁判所に当たる中国最高人民法院は,環境技術メーカーの富士化水工業と中国の電力事業者の華陽電業に,巨額の損害賠償などを命じる特許侵害裁判の最終判決を下した。

 賠償額は5061万2400元(約6億8000万円)。日本メーカーが敗訴した中国の特許侵害訴訟としては,過去最高の賠償額とみられている。2008年5月の1審判決でも同等の賠償額を命じる判決が出ており,最終判決の行方は法律関係者の注目を集めていた。

 この訴訟が関心を呼んだ理由は賠償額に加え,訴訟に至る経緯にある。そこからは,中国における特許制度の特異性が浮かび上がってくる。

海水脱硫技術の特許を侵害?

 富士化水工業などが侵害したとされるのは,中国のChina Environmental Project Tech Inc.(CEPT社,武漢晶源環境工程)の海水脱硫技術に関する特許だ。CEPT社は1994年に設立された企業で,環境技術の調査や研究開発などを手掛ける。海水脱硫技術は,工場などの排煙に含まれるSOxガス(硫黄酸化物)を海水に触れさせ,Sを除去する技術である。

 富士化水工業は,華陽電業の後石発電所(福建省)に海水脱硫の技術や部品などを提供した。その技術が特許侵害だとして,同発電所が運転開始した翌年の2001年に両社を提訴したのが,CEPT社だ(図1)。

図1 日本企業で過去最高の損害賠償額
2009年末に中国最高人民法院で判決が下された中国企業と富士化水工業の特許侵害訴訟の構図。富士化水工業が華陽電業に納めた,火力発電所の排煙を,海水を使って浄化する脱硫装置が特許を侵害しているとされた。富士化水工業と華陽電業が支払いを命じられた賠償額は,5061万2400元(約6億8000万円)。
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